繰越欠損金のタックスプランニング1(欠損金引継規制期間経過後)/100%子会社の清算か吸収合併か

 今回のテーマは、業績不振により廃業した100%子会社から、その繰越欠損金を、親会社にどう引き継ぐか、です。

【前提】
 ・100%子会社には、多額の繰越欠損金がある。
 ・100%子会社は、大きな債務超過である。
 ・100%子会社は、廃業している。
 ・100%子会社の仕入先、金融機関等に対する債務(親会社以外に対する債務)は、親会社から100%子会社への貸付金を原資に弁済した。
 ・親会社から100%子会社への貸付金の大半については返済が見込めない。

 手法としては、以下の二つを考えます。
 ・100%子会社を清算する
 ・100%子会社を吸収合併する 

 繰越欠損金の引継規制として、欠損等法人に対する規制(法法57条の2)と、一般的な規制(法法57条3項)があります。
 ですが、今回は、これらの引継規制期間(100%子会社化後から約5年経過まで)が過ぎ、規制の適用がない状況下でのお話をします。

 さて、まず清算コースの手順です。
 100%子会社の清算は、一般には、裁判所の関与する特別清算でなく、通常の清算手続で行います。
 そして、債務超過のままでは清算できないため、親会社は、100%子会社への貸付金のうち、債務超過額相当を債権放棄した後、清算します。

 仮に、

 ・100%子会社の繰越欠損金を2億、債権放棄を1億

 としますと、債権放棄及び清算により、

 ・親会社:債権放棄損1億が計上
 ・100%子会社:債務免除益1億が計上されます。これとの相殺により100%子会社で繰越欠損金1億が使用され、親会社へ引き継がれる繰越欠損金は1億

 となります。

 一方、吸収合併コースでは、このような債権放棄は行いません。
 100%子会社の親会社からの借入金は吸収合併により親会社に移転し、同時に、親会社の貸付金との混同し、消滅します。
 また、100%子会社の繰越欠損金2億は、そのまま親会社に引き継がれます。

 すると、

 【清算コース】債権放棄損1億+親会社へ引き継がれる繰越欠損金1億 = 【吸収合併コース】親会社へ引き継がれる繰越欠損金2億

 となり、どちらでも同じでは?と思われます。
 しかし、清算コースの債権放棄損には、面倒な問題があります。
 下記の通達の要件を満たさない場合には、寄附金認定を受けるリスクがあるのです。

 (子会社等を整理する場合の損失負担等)
 9-4-1 法人がその子会社等の解散、経営権の譲渡等に伴い当該子会社等のために債務の引受けその他の損失負担又は債権放棄等(以下9-4-1において「損失負担等」という。)をした場合において、その損失負担等をしなければ今後より大きな損失を蒙ることになることが社会通念上明らかであると認められるためやむを得ずその損失負担等をするに至った等そのことについて相当な理由があると認められるときは、その損失負担等により供与する経済的利益の額は、寄附金の額に該当しないものとする。
 (注) 子会社等には、当該法人と資本関係を有する者のほか、取引関係、人的関係、資金関係等において事業関連性を有する者が含まれる(以下9-4-2において同じ。)。

 そして、一部でも寄附金認定を受けると、

 【清算コース】債権放棄損(1億ー寄附金認定額)+親会社へ引き継がれる繰越欠損金1億 < 【吸収合併コース】親会社へ引き継がれる繰越欠損金2億

 となってしまいます。
 そこで、基本的には、安全な吸収合併を採用した方が良いことになります。

 ただし、繰越欠損金の発生状況によっては、そうでないケースがあります。
 例えば、次のケースです。

 ・100%子会社の繰越欠損金:2020年3月期発生、2030年3月期に期限切れ(発生後10年経過)が1億、その後の発生が2億、合計3億 
 ・100%子会社は2030年3月に清算または吸収合併
 ・親会社の債権放棄損は2億
 ・親会社は9月決算

 この場合で、寄附金認定リスクを無視して考えると、次の状況になります。

 【清算コース】債権放棄損2億+親会社へ引き継がれる繰越欠損金1億 > 【吸収合併コース】親会社へ引き継がれる繰越欠損金2億

 何故、吸収合併コースでは引き継がれる繰越欠損金が2億になってしまうのでしょうか?
 これは、子会社の繰越欠損金が引き継がれる際には、子会社で繰越欠損金の発生した事業年度の開始日の属する親会社の事業年度で生じたものとみなされるためです。
 すなわち、子会社で2020年3月期に発生した欠損金は、その事業年度開始日である2019年4月1日の属する親会社の事業年度である2019年9月期に親会社で生じたものとみなされます。
 すると、2019年9月期に発生した繰越欠損金は、そこから10年経過した2029年9月期に期限切れを迎え、2020年3月期に合併するのであれば、結局は親会社は引き継げません。
 子会社自身では使えても、親会社へ引き継ぐには期限切れとなってしまうというケースです。

 さて、このケースでは、意思決定が難しくなります。
 債権放棄損2億に対する寄附金認定額が1億以内と想定するなら清算、1億以上と想定するなら吸収合併、となります。
 でも、寄附金認定額はどうやって見通すのでしょうか?
 上記の通達の抽象的な文言から結論は出ません。
 下記のガイドライン的なQ&Aや採決例・判例もありますが、結局は同じことかと思います。

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5280_qa.htm#q1-1

 当局への事前照会制度も設けられていますが、照会して良い回答が得られなかったら吸収合併に切り替えるというのは・・・・・。
 真面目に仕事をしているだけ、然るべき権利を行使しているだけなのですけど、何かとても後ろめたいことをしている気持ちになってきます。
 先方の心証も悪いだろうしなぁ・・・・・。

 さて、このケースについて、抗弁を考えてみました。
 
 清算コースを採用し、当初申告は、債権放棄損2億で行きます。
 事後の親会社への調査では、100%子会社への過剰支援はゼロ、寄附金はゼロと主張してみます。
 で、さっぱり通らずで、債権放棄損は否認しますと言われたら、グループ法人税制で反論してみます。
 すなわち、親会社で100%子会社への寄付金(全額損金不算入)を認定するならば、一方の100%子会社では、対応する債務免除益(受贈益)は全額益金不算入であり、その分だけ、繰越欠損金は使用されていない。
 だから、債権放棄損が寄附金として否認されても、否認額だけ、当初申告と比べ、親会社へ引き継がれる繰越欠損金は増えます。
 だから、行って来いで、債権放棄損と引き継がれる繰越欠損金の合計は3億ですよ、と。
 対応的調整をお願いしますと。

 しかし、清算により既に存在していない子会社に対し、更正は出来るのでしょうか?
 あるいは親会社への更正により、引き継ぐ繰越欠損金の金額を直接更正できるのでしょうか?
 ご経験ある方がいらっしゃれば、是非ご教示頂けると、とてもありがたいです。
 これができるなら、安心して清算コースを選べるのですが・・・・・。

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