繰越欠損金のタックスプランニング2(欠損金の引継規制)/100%子会社の清算か吸収合併か

 前回に引き続き、今回のテーマも、業績不振により廃業した100%子会社から、その繰越欠損金を、親会社にどう引き継ぐか、です。
 前回は、繰越欠損金の引継規制期間が経過した後のお話でした。
 今回は、繰越欠損金の引継規制について、説明します。 

【前提】
 ・買収(M&A)で、資本関係のなかった会社を100%子会社とした。
 ・買収時点で、100%子会社には、若干の繰越欠損金があった。
 ・買収直後から100%子会社の業績が著しく悪化し、多額の欠損を計上し、債務超過となった。
 ・業績回復が難しいと判断されたため、100%子会社は事業を廃業した。
 ・100%子会社の仕入先、金融機関等に対する債務(親会社以外に対する債務)は、親会社から100%子会社への貸付金を原資に弁済した。
 ・親会社から100%子会社への貸付金の大半については返済が見込めない。


 現時点では、買収から3年を経過しています。
 この100%子会社の繰越欠損金を、100%子会社の清算ないし吸収合併で親会社に引き継げないか、検討しています。

 さて、この場合には、2つの繰越欠損金の引継規制が適用されます。
 欠損等法人に対する規制(法法57条の2)と一般的な規制(法法57条3項)です。

欠損等法人に対する規制

 欠損等法人とは、買収(50%超の株式取得)日の属する事業年度において、それより前の事業年度に生じた繰越欠損金を持っている法人です。
 (その他、買収日の属する事業年度の開始日に含み損のある資産を持っている場合も該当します)。

 本件では、買収時点で若干の繰越欠損金が残っているため、これに当たります。
 悲しいかな、繰越欠損金の金額の大小は考慮してもらえません。

 そして、買収後5年以内に、欠損等法人に一定の事由(トリガー事由)に生じると、欠損等法人の次の繰越欠損金は、清算や合併により引継ぎできなくなります。

・トリガー事由の生じた事業年度より前の各事業年度に生じた繰越欠損金

 独特なのは、買収後に生じた繰越欠損金でも規制の対象となる点です。

そして、色々なトリガー事由がありますが、今回のテーマに関しては、次のトリガー事由があります。

・買収直前に営む事業の全てを買収後に廃止した場合において、欠損等法人が清算し、または、吸収合併されること

 買収により企業グループ入りした後で生じた繰越欠損金は、その企業グループの活動の結果生じたものですから、その企業グループで消化できて然りじゃないか、と思うのですが、そうはなりません。
 この制度の趣旨は、繰越欠損金を有する法人の買収を通じた租税回避を防止する、ということですが、ずいぶんと広範になっております。

 かつては、100%子会社の清算の場合には、上記のトリガー事由は発動停止だったようですが(T&Amaster2011.9.19 No419「欠損等法人の残余財産が確定した場合の欠損金の取扱い」)、平成29年税制改正で封じられました。

一般的な規制

 清算日(残余財産の確定日の翌日)ないし合併日の属する親会社の事業年度の開始日の前5年以内に買収していれば、繰越欠損金の引継ぎは規制されます。
 (清算日ないし合併日の属する親会社の事業年度の開始日の5年前の日以前に買収をしていれば、規制されません。)

 例外として、合併のケースでは、合併法人と被合併法人とが、合併後に共同で事業を営む場合には、所定要件を満たせば規制はされません。
 (本件の被合併法人(100%子会社)は廃業しているため、これに当たりません。)
 また、買収日の属する100%子会社の事業年度の前事業年度末時点で、「100%子会社の含み益>繰越欠損金」であれば、規制されません。

 さて、規制の対象となる繰越欠損金ですが、欠損等法人の場合と異なり、以下に限られます。

・買収日の属する100%子会社の事業年度より前の各事業年度に生じた繰越欠損金
・買収日の属する100%子会社の事業年度以降の各事業年度に生じた繰越欠損金のうち、買収日の属する100%子会社の事業年度の前事業年度末に有する資産の譲渡や貸倒等によって生じた損失額

 すなわち、企業グループ入り前の繰越欠損金と、企業グループ入り時点で抱えていた含み損の実現により生じた繰越欠損金に限られます。
 企業グループ入り後に事業運営により生じた繰越欠損金は対象外となります。

 なお、合併の場合に限り、合併法人(親会社)の繰越欠損金にも上記と同じ規制がされます。
 合併法人と被合併法人の規模の差や、繰越欠損金の金額の差は考慮されません。
 親会社からみると極小さな会社を吸収合併したが故に、親会社の繰越欠損金に想定外の切り捨てという理不尽が起こりえます。

 さて、概ね5年以内の清算ないし合併では上記の規制がされます。
 では、どうするかですが、親会社に毎年安定して利益が出ていれば、規制期間が過ぎるまで待つ、ということになります。
 繰越欠損金を使うために、清算ないし合併を先延ばしにするわけです。
 あからさまな行為ではありますが、要件を見たら誰でもするであろう単純な節税行為であり、当局側としても、組織再編税制の包括否認規定を適用することは難しいだろうと思います。

 ただ、清算コースで行く場合には、先延ばしは、親会社で計上される債権放棄損に対する寄附金認定を招く心理的要因となりえるように思います。

 すなわち、100%子会社の繰越欠損金を2億、清算のための親会社による債権放棄を1億としますと、親会社では1億円の債権放棄損が計上されます。
 また、100%子会社では1億円の債務免除益が計上され、繰越欠損金1億円が消化された上で、残りの繰越欠損金1億が親会社に引き継がれます。
 そして、親会社で計上された債権放棄損は、下記の通達の要件を満たさない場合、寄附金認定を受けるリスクがあります。

(子会社等を整理する場合の損失負担等)
 9-4-1 法人がその子会社等の解散、経営権の譲渡等に伴い当該子会社等のために債務の引受けその他の損失負担又は債権放棄等(以下9-4-1において「損失負担等」という。)をした場合において、その損失負担等をしなければ今後より大きな損失を蒙ることになることが社会通念上明らかであると認められるためやむを得ずその損失負担等をするに至った等そのことについて相当な理由があると認められるときは、その損失負担等により供与する経済的利益の額は、寄附金の額に該当しないものとする。
 (注) 子会社等には、当該法人と資本関係を有する者のほか、取引関係、人的関係、資金関係等において事業関連性を有する者が含まれる(以下9-4-2において同じ。)。

 そして、当局がこの寄附金認定を検討する際に、「繰越欠損金の引継規制を逃れるために清算を何年も先送りにするとは、まずそこがけしからん」というところからスタートしてしまうかもしれません。
 この点では、このような裁量が入る余地がなく、繰越欠損金2億を確実に引継げる合併の方が良いと思います。

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