インフルエンサー(インスタグラマー等)へ支払う報酬について源泉徴収は必要?

 弊所はファッション、アパレル、繊維関係のお客様が多く、インスタグラマー・ウェアリスタのマネジメントをされている方や、インスタグラマーの方もいらっしゃいます。
 そこで、今回のテーマは、インフルエンサーへ支払う報酬に対する源泉徴収の要否です。

 まず、結論として、源泉徴収は不要と思います。
 理由は、源泉徴収が必要となる報酬は所得税法等に定められていますが、このいずれにも該当しないためです。
 以下では、順番に、条文の内容を見て行きます。

①原稿、さし絵、作曲、レコード吹込み又はデザインの報酬、放送謝金、著作権(著作隣接権を含む。)又は工業所有権の使用料及び講演料並びにこれらに類するもので政令で定める報酬又は料金
【政令で定める報酬又は料金】
 テープ若しくはワイヤーの吹込み、脚本、脚色、翻訳、通訳、校正、書籍の装てい、速記、版下(写真製版用写真原板の修整を含むものとし、写真植字を除くものとする。)若しくは雑誌、広告その他の印刷物に掲載するための写真の報酬若しくは料金、技術に関する権利、特別の技術による生産方式若しくはこれらに準ずるものの使用料、技芸、スポーツその他これらに類するものの教授若しくは指導若しくは知識の教授の報酬若しくは料金又は金融商品取引法第二十八条第六項(通則)に規定する投資助言業務に係る報酬若しくは料金

 ①では該当しそうなものはありません。

 ただ、インフルエンサーが商品デザインに関与する場合、話が違ってきます(〇〇〇さんコラボパーカーなどでインフルエンサーがデザインする等)。
 上記の「デザイン」には、通達によると「服飾デザイン(衣服・装身具等のデザイン)」も含まれますので、デザイン料の支払いがあれば、名目に関わらず、源泉徴収が必要です。

 また、インフルエンサーから提供された写真が、雑誌その他紙媒体にも掲載されることとなっていれば、「雑誌、広告その他の印刷物に掲載するための写真の報酬」に当たる可能性が出てきます。

②弁護士(外国法事務弁護士を含む。)、司法書士、土地家屋調査士、公認会計士、税理士、社会保険労務士、弁理士、海事代理士、測量士、建築士、不動産鑑定士、技術士その他これらに類する者で政令で定めるものの業務に関する報酬又は料金
【これらに類する者で政令で定めるもの】
 計理士、会計士補、企業診断員(企業経営の改善及び向上のための指導を行う者を含む。)、測量士補、建築代理士(建築代理士以外の者で建築に関する申請若しくは届出の書類を作成し、又はこれらの手続を代理することを業とするものを含む。)、不動産鑑定士補、火災損害鑑定人若しくは自動車等損害鑑定人(自動車又は建設機械に係る損害保険契約(保険業法第二条第四項(定義)に規定する損害保険会社若しくは同条第九項に規定する外国損害保険会社等の締結した保険契約又は同条第十八項に規定する少額短期保険業者の締結したこれに類する保険契約をいう。)又はこれに類する共済に係る契約の保険事故又は共済事故に関して損害額の算定又はその損害額の算定に係る調査を行うことを業とする者をいう。)又は技術士補(技術士又は技術士補以外の者で技術士の行う業務と同一の業務を行う者を含む。)

③社会保険診療報酬支払基金法(昭和二十三年法律第百二十九号)の規定により支払われる診療報酬

 ②③でも該当しそうなものはありません。

④職業野球の選手、職業拳けん闘家、競馬の騎手、モデル外交員、集金人、電力量計の検針人その他これらに類する者で政令で定めるものの業務に関する報酬又は料金
【これらに類する者で政令で定めるもの】
 プロサッカーの選手、プロテニスの選手、プロレスラー、プロゴルファー、プロボウラー、自動車のレーサー、自転車競技の選手、小型自動車競走の選手又はモーターボート競走の選手とし、同号に規定するモデルには、雑誌、広告その他の印刷物にその容姿を掲載させて報酬を受ける者を含む

 ④でも該当しそうなものはありません。

 なお、モデルについては、インスタグラマー・ウェアリスタであれば、自分を被写体にする点で、モデルと似てはいます。
 ただ、インフルエンサーの仕事の内容は、自分のSNSアカウントにより、自分が主体となって選択した商品について、自分のコメントを加えて情報発信することであり、モデルとは随分違います。
 言葉の定義上も、両者は異なり、上記のモデルには当たらないと思います。

・インフルエンサー:経済・流行・価値観などに関して、多くのひとびとに強い影響を持つ人物。特に、インターネットなどのメディアを通して購買活動に大きな影響を与える人を言う(三省堂現代新国語辞典)。

・ファッションモデル:衣服や装飾品を身に付け、広告やファッション雑誌の被写体となり、あるいはファッションショーなどに出演することを職業としているモデルのことを言う。

 また、外交員については、判例で、「事業主の委託を受け、継続的に事業主の商品等の勧誘を行い、購入者と事業主との間の売買契約の締結を媒介する役務を自己の計算において事業主に提供し、その報酬が商品等の販売高に応じて定められている者」と定義されています。
 この定義のうち、次の箇所が、インフルエンサーには当てはまりません。 

・「勧誘」=あることをするように勧めて誘うこと。「保険の勧誘」「劇団に勧誘される」(小学館 デジタル大辞泉)。
 しかし、インフルエンサーが、「このパーカーはここが凄い」と投稿した場合、それはパーカーの紹介に過ぎません。
 商品等の勧誘に当たるには、消費者に対し、商品を購入するよう、より強く、直接的に誘いかけることが必要と思います。
 まさに保険のおばさん(外交員)のような。

売買契約の締結を媒介、「媒介」=両方の間に立って、なかだちをすること。とりもつこと。(小学館 デジタル大辞泉)
 しかし、インフルエンサーの仕事は、商品と実店舗・ECサイトの紹介で終わり、これに対して報酬が支払われます。
 消費者を小売業者の店舗・サイトまで連れて来て商品を買わせるところまでがインフルエンサーの仕事で、これに対して報酬が支払われるのなら、売買契約の締結の媒介といえますが、そうではありません。

 よって、上記の外交員にも当てはまりません。

⑤映画、演劇その他政令で定める芸能又はラジオ放送若しくはテレビジョン放送に係る出演若しくは演出(指揮、監督その他政令で定めるものを含む。)又は企画の報酬又は料金その他政令で定める芸能人の役務の提供を内容とする事業に係る当該役務の提供に関する報酬又は料金(これらのうち不特定多数の者から受けるものを除く。)
【政令で定める芸能】
 音楽、音曲、舞踊、講談、落語、浪曲、漫談、漫才、腹話術、歌唱、奇術、曲芸又は物まね
【その他政令で定めるもの】
 映画若しくは演劇の製作、振付け(剣技指導その他これに類するものを含む。)、舞台装置、照明、撮影、演奏、録音(擬音効果を含む。)、編集、美粧又は考証
【政令で定める芸能人】
 映画若しくは演劇の俳優、映画監督若しくは舞台監督(プロジューサーを含む。)、演出家、放送演技者、音楽指揮者、楽士、舞踊家、講談師、落語家、浪曲師、漫談家、漫才家、腹話術師、歌手、奇術師、曲芸師又は物まね師

 ⑤でも該当しそうなものはありません。
 なお、芸能人であるインフルエンサーに支払われる報酬でも、インフルエンサーとしての仕事に対して支払われるのであれば、上記⑤に該当しません。

⑥キャバレー、ナイトクラブ、バーその他これらに類する施設でフロアにおいて客にダンスをさせ又は客に接待をして遊興若しくは飲食をさせるものにおいて客に侍してその接待をすることを業務とするホステスその他の者(以下この条において「ホステス等」という。)のその業務に関する報酬又は料金

⑦役務の提供を約することにより一時に取得する契約金で政令で定めるもの
【政令で定めるもの】
 職業野球の選手その他一定の者に専属して役務の提供をする者で、当該一定の者のために役務を提供し、又はそれ以外の者のために役務を提供しないことを約することにより一時に受ける契約金

⑧広告宣伝のための賞金又は馬主が受ける競馬の賞金で政令で定めるもの
【政令で定めるもの】 
 広告宣伝のための賞金で政令で定めるものは、事業の広告宣伝のために賞として支払う金品その他の経済上の利益(旅行その他役務の提供を内容とするもので、金品との選択をすることができないものとされているものを除く。)とし、同号に規定する馬主が受ける競馬の賞金で政令で定めるものは、第二百九十八条第九項(内国法人に係る所得税の課税標準)に規定する賞金とする。

 ⑥⑦⑧でも該当しそうなものはありません。

 以上から、源泉徴収は不要と思います。
 本年受けた税務調査でも、インフルエンサーとは何か?、と問われたものの、源泉徴収については何の指摘もありませんでした。
 源泉徴収をされている会社もあるようですが、特に国税不服審判所の裁決例等も出てこないので、源泉徴収不要との認識で良いかと思います。
 

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