消費税インボイス制度と免税事業者であるインフルエンサー(インスタグラマー等)への対応
弊所はファッション、アパレル、繊維関係のお客様が多く、インスタグラマー・ウェアリスタのマネジメントをされている方や、インスタグラマーの方もいらっしゃいます。
そこで、今回のテーマは、インフルエンサーへ発注している会社で、消費税インボイス制度導入に際して必要となる、インフルエンサーへの対応です。
(令和4年1月19日に「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」が公表されたので、記事を修正しました。
令和4年3月8日に「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」が改正されたので、記事を修正しました。
税務通信3707号(令和4年6月13日)等を受けて、記事を修正しました。)
消費税インボイス制度の概要
消費税は、受け取った消費税から支払った消費税を差し引き、差額を納税します。
アパレル小売業の会社なら、消費者から受け取った売上代金に含まれる消費税から、メーカーへ支払った仕入代金に含まれる消費税、家主に支払った家賃に含まれる消費税などを差し引き、差額を納税します。
そして、これまでは、支払った消費税を差し引くこと(仕入税額控除といいます)に制限はありませんでした。
インフルエンサーへ支払った報酬に含まれる消費税も、制限なく仕入税額控除ができました。
ところが、インボイス制度導入後は、税務署に登録したインボイス発行事業者へ支払った消費税でなければ、仕入税額控除はできません。
そして、インボイス発行事業者となるには、その前提として、消費税の課税事業者となり、消費税を納めないといけないのです。
過去の売上が1000万円超の事業者は、自動的に消費税の課税事業者となり、消費税を納めることとなります。
この課税事業者がインボイス発行事業者となるには、税務署に登録を行い、請求書等(インボイス)の記載事項を整えるだけの話です。
一方、過去の売上が1000万円以下の事業者は、免税事業者として、消費税の納税の免除を受けられます。消費税を納めなくて良いのです。
しかし、この免税事業者がインボイス発行事業者となるには、消費税免除というメリットを自ら捨て、消費税の課税事業者を選択し、消費税を納めなければならないのです。
上記の例で言えば、アパレル小売業の会社が、免税事業者のままであるインフルエンサーへ支払った消費税相当額は仕入税額控除ができなくなります。
これがインボイス制度です。
そして、支払い、仕入税額控除ができない消費税相当額は会社の費用となり、その分、会社の利益が減少します。
このインボイス制度は、令和5年10月1日から導入されます。
また、経過措置があり、下記の期間においては、免税事業者に支払った消費税のうち、下記の割合だけは仕入税額控除ができます。
・令和5年10月1日から令和8年9月30日 ⇒ 80%
・令和8年10月1日から令和11年9月30日 ⇒ 50%
それでは、インフルエンサーへはどのような対応が必要でしょうか?
消費税の免税事業者であるインフルエンサーに対しては、以下の対応が考えられます。
投稿回数・収入の多い、専業インフルエンサー(免税事業者)への対応
対応①:仕入税額控除が出来なくなる分の価格引き下げを求める
インボイス制度導入後において、インフルエンサーが免税事業者のままであれば、発注者(会社)では、従来はできた仕入税額控除ができなくなります。
よって、その分の価格引き下げを求めることが考えられます。
この点については、「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」Q7では、次のように記載されています。
1 取引対価の引下げ
取引上優越した地位にある事業者(買手)が、インボイス制度の実施後の免税事業者との取引において、仕入税額控除ができないことを理由に、免税事業者に対して取引価格の引下げを要請し、取引価格の再交渉において、仕入税額控除が制限される分(注2)について、免税事業者の仕入れや諸経費の支払いに係る消費税の負担をも考慮した上で、双方納得の上で取引価格を設定すれば、結果的に取引価格が引き下げられたとしても、独占禁止法上問題となるものではありません。
しかし、再交渉が形式的なものにすぎず、仕入側の事業者(買手)の都合のみで著しく低い価格を設定し、免税事業者が負担していた消費税額も払えないような価格を設定した場合であって、免税事業者が今後の取引に与える影響等を懸念してそれを受け入れざるを得ない場合には、優越的地位の濫用として、独占禁止法上問題となり得ます。
(注2)免税事業者からの課税仕入れについては、インボイス制度の実施後3年間は、仕入税額相当額の8割、その後の3年間は同5割の控除ができることとされています。
(出典)
https://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/invoice_qanda.html
Q&Aに対する更なるQ&Aが必要な、難解なQ&Aですが・・・・・
ここから読み取れることは、次の通りです。
・国は、仕入税額控除ができなくなることを理由とする価格引き下げ交渉を明確に認めている。
・交渉の結果、インフルエンサーが納得すれば、仕入税額控除ができなくなる金額(当面は消費税相当額の2割)に限って価格引き下げをすることは、独占禁止法上問題がない。
(合法であり、課徴金賦課などのペナルティはない)
・発注者が一方的に、かつ、著しく低い価格にしてしまうと、独占禁止法上問題がある。
また、「免税事業者が負担していた消費税額も払えないような価格を設定した場合」というのは、次のようなケースを言いたいのかもしれません。
しかし、極めて稀なケースではないでしょうか。
免税事業者の現状の収支:売上110万円、売上原価・販管費109万円(うち消費税相当額9.9万円)、利益1万円
これに対して、当面の3年間に仕入税額控除ができなくなる2万の価格引き下げを行うと
免税事業者の価格引き下げ後の収支:売上108万円、売上原価・販管費109万円(うち消費税相当額9.9万円)、損失1万円 ⇒ 消費税9.9万円の一部が払えない
⇒ 108万円は、負担していた消費税額も払えないような価格
(しかしこんな薄利で売上1000万円以下だったら廃業しますよね、だから極めて稀です。)
これを踏まえ、現実にどう対応したらよいでしょうか?
インフルエンサーの人数が多ければ、個々に交渉するのは難しいと思います。
そうなると、異議のある方は協議の機会を設けますのでお申し出くださいと付記した、価格引き下げをお願いする書面やメールを送り、申し出た方とは個々に交渉することになるかと思います。
対応②:インボイス発行事業者となるよう依頼する (その前提として、課税事業者となり、消費税を納税してもらう)
免税事業者であるインフルエンサーがインボイス発行事業者となってくれれば、発注者(会社)では仕入税額控除ができます。
よって、インフルエンサーにこれをお願いすることが考えられます。
インフルエンサー側では、これを受け入れると課税事業者となり、消費税を納税することとなります。
これまでと比べ、税負担が増えるため、報酬の値上げを求めてくるかもしれません。
この点については、「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」Q7では、次のように記載されています。
1 取引対価の引下げ
(中略)
また、取引上優越した地位にある事業者(買手)からの要請に応じて仕入先が免税事業者から課税事業者となった場合であって、その際、仕入先が納税義務を負うこととなる消費税分を勘案した取引価格の交渉が形式的なものにすぎず、著しく低い取引価格を設定した場合についても同様です。 ⇒ 同様=優越的地位の濫用として、独占禁止法上問題となり得ます。筆者補足
6 登録事業者となるような慫慂等
課税事業者が、インボイスに対応するために、取引先の免税事業者に対し、課税事業者になるよう要請することがあります。このような要請を行うこと自体は、独占禁止法上問題となるものではありません。
しかし、課税事業者になるよう要請することにとどまらず、課税事業者にならなければ、取引価格を引き下げるとか、それにも応じなければ取引を打ち切ることにするなどと一方的に通告することは、独占禁止法上又は下請法上、問題となるおそれがあります。例えば、免税事業者が取引価格の維持を求めたにもかかわらず、取引価格を引き下げる理由を書面、電子メール等で免税事業者に回答することなく、取引価格を引き下げる場合は、これに該当します。また、免税事業者が、当該要請に応じて課税事業者となるに際し、例えば、消費税の適正な転嫁分の取引価格への反映の必要性について、価格の交渉の場において明示的に協議することなく、従来どおりに取引価格を据え置く場合についても同様です(上記1、5等参照)。
したがって、取引先の免税事業者との間で、取引価格等について再交渉する場合には、免税事業者と十分に協議を行っていただき、仕入側の事業者の都合のみで低い価格を設定する等しないよう、注意する必要があります。
ここから読み取れることは、次の通りです。
①国は、仕入税額控除ができなくなることを理由として、インフルエンサーに課税事業者となるよう要請することを明確に認めている。
②要請を受けてインフルエンサーが課税事業者となった場合、価格交渉の場を設けず、従来どおりに取引価格を据え置くのは、独占禁止法上又は下請法上、問題となるおそれがある。
ここはおそらく、交渉の結果、インフルエンサーが納得すれば、取引価格の据え置きは問題ない、と読ませたいのでしょう。
インボイス制度の目的は、下記の会見の概要の通り、免税事業者の益税(消費税をもらっているが払っていないことにより利益を得ている)の解消、つまりは増税です。
この増税額を発注者と課税事業者成りする免税事業者のいずれが負担すべきか、という問いに対し、「政府は憎まれるの嫌なんで中立の立場をとって免税事業者の肩も持ちます、だから発注者は一方的なことしちゃ駄目ですが、あとは民間の問題なんで(にすり替えますんで)、発注者が課税事業者成りする免税事業者を納得させて、増税分を負担させちゃって下さい。また、恨む相手は発注者です」という回答でしょうか。
益税解消と言う以上、政府が、増税分は課税事業者成りする免税事業者が負担すべきと明言した方が、清々しく、逆に好感度が上がると思いますが・・・・・。
麻生副総理兼財務大臣兼内閣府特命担当大臣閣議後記者会見の概要(平成27年12月4日(金)11時32分~11時47分)
【質疑応答】
問)軽減税率制度のインボイス制度についてです。昨日、与党が軽減税率導入後から数年後に適格請求書等保存方式、いわゆるインボイス制度を導入することを合意いたしました。インボイスは財務省もかねてから導入を求めてきたところだと思いますが、この合意について大臣の所感をお願いします。もう1点、インボイス導入後、与党は事業者免税点制度、それと中小事業者向けの簡易課税なども一定期間認める方向で検討されているやに聞いていますが、益税の問題が残るかと思います。この点についても大臣のお考えをお願いします。
答)昨日、与党において、適格請求書等保存方式、通称インボイスと言うのですけれども、これを導入しますと。益税批判、益税というのは消費税をもらっていながら消費税を納めていないというのに対する批判が前からあるので、インボイスをやりますと、ただ、煩雑なことになることは確かですので、その意味では簡素な方法でやりますと、基本的にはこの2つを言っておられるのだと思います。
(出典)
https://www.fsa.go.jp/common/conference/minister/2015b/20151204-1.html
さて、Q&Aから読み取れることの続きです。
③課税事業者となるよう要請されたが、これに応じずインフルエンサーが免税事業者に留まった場合、一方的に取引価格を引き下げるのは、独占禁止法上又は下請法上、問題となるおそれがある。
ここもおそらく、要請に応じない場合、交渉の結果、インフルエンサーが納得すれば、仕入税額控除ができなくなる金額に限って価格引き下げをしても良い、と読ませたいのでしょう。
④課税事業者となるよう要請されたが、インフルエンサーがこれに応じず免税事業者に留まった場合、取引を停止することは、独占禁止法上又は下請法上、問題となるおそれがある。
さて、上記を踏まえて、現実にどう対応したらよいでしょうか?
こちらは、課税事業者となるよう依頼する書面やメールに、価格据え置きの意向と理由を記載し、異議のある方は協議の機会を設けますのでお申し出くださいと付記しておく、という対応が考えられます。
申し出た方とは個々に交渉することになるかと思います。
対応③:取引を停止する
こちらについても、「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」Q7で、次のように記載されています。
5 取引の停止
事業者がどの事業者と取引するかは基本的に自由ですが、例えば、取引上の地位が相手方に優越している事業者(買手)が、インボイス制度の実施を契機として、免税事業者である仕入先に対して、一方的に、免税事業者が負担していた消費税額も払えないような価格など著しく低い取引価格を設定し、不当に不利益を与えることとなる場合であって、これに応じない相手方との取引を停止した場合には、独占禁止法上問題となるおそれがあります。
引き続き難解なQ&Aですが・・・・・。
以下を要請し、協議したがインフルエンサーが納得しなかった際の取引停止は独占禁止法上問題なし、と読ませたいのかもしれません。
・免税事業者であるインフルエンサーに対し、仕入税額控除ができなくなる金額に限った価格引き下げ
・新たに課税事業者となったインフルエンサーに対し、従来価格の据え置き
ただ、仕入税額控除ができなくなって少々コスト高になっても、必要なインフルエンサーの方はやはり必要だと思いますので、仕入税額控除ができないという一点のみでの取引の停止は現実的ではないのでは、と思います。
投稿回数・収入の少ない、副業インフルエンサー(免税事業者)への対応
対応①:仕入税額控除が出来なくなる分の価格引き下げを求める
こちらは、基本的には、専業インフルエンサー(免税事業者)への対応①と同じです。
ただ、副業インフルエンサーに対しやや強引に価格引き下げを行ったとしても、これを公正取引委員会が、独占禁止法および下請法の関係で問題視するか、というと、かなり可能性は低いのでは、と思います。
対応②:インボイス発行事業者となるよう依頼する (その前提として、課税事業者となり、消費税を納税してもらう)
こちらは、基本的には、専業インフルエンサー(免税事業者)への対応②と同じです。
ただ、副業インフルエンサーは、確定申告上、インフルエンサー収入を雑所得として申告しているため、会計帳簿を作成していないかもしれません。
この場合には、課税事業者となることで、消費税負担に加え、会計帳簿を付ける手間も生じます。
インフルエンサーとしての収入がある程度はないと、収入の割に手間が掛かるということで、受け入れてもらえないかもしれません。
なお、副業の域を出なければ、消費税の課税事業者となっても、確定申告ではインフルエンサー収入を雑所得として申告することは可能です。
消費税法上の事業の定義は、所得税法上の事業の定義より広い範囲を指しているためです。
対応③:取引を停止する
こちらは、専業インフルエンサー(免税事業者)への対応③と同じです。
こちらも公正取引委員会が問題視する可能性は低いように思います。
既に課税事業者であるインフルエンサーへの対応
既に消費税の課税事業者であるインフルエンサーに対しては、インボイス発行事業者の登録をしてもらい、請求書等(インボイス)に所定事項の記載をしてもらえば済みます。
こちらは事務処理の手間がやや増えるという話であり、インフルエンサーの収入が減る・税負担が増えるという話ではないので、了解を得られると思います。
これにより従来通りの仕入税額控除が可能です。
このテーマはまだまだ国から情報が出揃っておらず、直ちには動きにくい状況です。
新しい情報が出てきましたら、記事に反映させて行きますので、宜しくお願い致します。