インボイス制度導入後における免税事業者に対する源泉徴収税額の計算

 現状では、免税事業者が請求書に消費税を区分して記載してきた場合、所得税等の源泉徴収税額は、税抜金額×10.21%(または20.42%)で計算できます。
 それでは、インボイス制度導入後はどうなるでしょうか?

免税事業者の売上(請求額)の中に消費税が含まれるか?

 まず、そもそも論として、免税事業者の売上(請求額)の中に消費税が含まれるか、という論点があります。
 インボイス制度導入前より、税務当局は、含まれないとの見解です。

 この点を争った判例(東京地裁平成11年1月29日、東京高裁平成12年1月13日、最高裁平成17年1月25日)があります。
 ぎゅっと要約すると次の通りです。納税者敗訴で確定しています。

【納税者の主張】
 消費税法4条により、事業者が資産の譲渡をすれば消費税が課される。
 従い、免税事業者の売上にも消費税が課されている(消費税が含まれている)。
 免税事業者は、同法9条により、得意先から徴収した売上の納税義務免除を受けるだけである。

(課税の対象)
第四条 国内において事業者が行つた資産の譲渡等(特定資産の譲渡等に該当するものを除く。第三項において同じ。)及び特定仕入れ(事業として他の者から受けた特定資産の譲渡等をいう。以下この章において同じ。)には、この法律により、消費税を課する。

(小規模事業者に係る納税義務の免除)
第九条 事業者のうち、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が千万円以下である者については、第五条第一項の規定にかかわらず、その課税期間中に国内において行つた課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れにつき、消費税を納める義務を免除する。ただし、この法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。

【裁判所の判断】
 国と国民との間の課税関係は、納税義務者に、課税物件が帰属したときに成立する。
 消費税は、納税義務者が、資産の譲渡等をした時に初めて発生する。
 消費税は、納税義務のない者が、資産の譲渡等をしても発生しない。
 消費税法4条は、事業者が資産の譲渡等をした場合に、「この法律により」納税義務があるとされれば、消費税を課すと読む。
 そして、免税事業者は同法9条により納税義務がないので、その売上に消費税は課されてない。

 また、当局の「消費税の軽減税率制度に関するQ&A(個別事例編)」問111でも、以下の記述があります。

 免税事業者は、取引に課される消費税がないことから、請求書等に「消費税額」等を表示して別途消費税相当額等を受け取るといったことは消費税の仕組み上、予定されていません。

免税事業者は消費税を請求して良いのか?

 免税事業者の売上には消費税が含まれないことがはっきりしました。
 しかし、ネットで検索していくと、インボイス制度導入前においては、「免税事業者は消費税を請求してOK」との記事がたくさん出てきます。
 これはどういうことでしょうか?

 これについては、税務当局が、(免税事業者の売上には消費税が含まれないと認めつつも)免税事業者が消費税名目でお金を請求することを放置し続けており、それが一般化したということだと思います。
 そして、この消費税名目で請求された金額は、税務上は消費税ではなく、本体代金の一部です。

インボイス導入前の源泉徴収税額の計算

 さて、ここで所得税等の源泉徴収税額の計算についての通達を確認します。

消費税法等の導入に伴う源泉所得税の取扱いについて(法令解釈通達)
3 報酬・料金等所得等に対する源泉徴収
 所得税法第204条第1項の規定が適用される報酬・料金等並びに同法第212条第1項又は第3項の規定が適用される国内源泉所得又 は報酬若しくは料金等(以下「報酬・料金等」という。)が支払われる場合において、当該報酬・料金等が消費税法第28条に規定する消費税の課税標準たる課税資産の譲渡等の対価の額にも該当するときの源泉徴収の対象とする金額は、原則として、消費税及び地方消費税の額を含めた金額となる。ただし、報酬・料金等の支払を受ける者からの請求書等において報酬・料金等の額と消費税及び地方消費税の額が明確に区分されている場合には、当該報酬・料金等の額を源泉徴収の対象とする金額として差し支えない。

 そして、免税事業者が請求書に消費税(及び地方消費税)の額を明確に区分して記載してきた場合、上記通達のただし書きの処理(源泉徴収税額=税抜金額×10.21(20.42)%)は認められるでしょうか?
 免税事業者が請求している消費税は、税務上は消費税ではありません。
 この実態を考えれば、ただし書きの処理は認められないのではないか、とも思われます。
 しかし、税務当局は、ただし書き以降の処理をすることを放置してきました。
 ただ、これには一理あります。
 すなわち、免税事業者への源泉徴収についてただし書きの処理を認めないとすると、源泉徴収義務者が、相手が免税事業者か課税事業者かを確認しないといけなくなります。
 しかし、この確認は源泉徴収義務者に負担が大きく、また、インボイス制度導入前には難しかった訳です。

インボイス導入後の源泉徴収税額の計算

 インボイス導入後については、税務当局より、以下のアナウンスがされています。

2 インボイス制度開始後の取扱い(現行の取扱いから変更なし)
 インボイス制度開始後においても、上記1の『請求書等』とは、報酬・料金等の支払を受ける者が発行する請求書や納品書等であればよく、必ずしも適格請求書(インボイス)である必要はありませんので、適格請求書発行事業者以外の事業者が発行する請求書等において、報酬・料金等の額と消費税等の額が明確に区分されている場合には、その報酬・料金等の額のみを源泉徴収の対象とする金額として差し支えありません。

 ここで、「適格請求書発行事業者以外の事業者」というのが、誰を指しているのか、良く分かりません。
 想定されるのは、以下の二つです。

①課税事業者のうち適格請求書(インボイス)発行事業者の登録をしなかった者
②免税事業者

 「適格請求書発行事業者以外の事業者」に②も含めるとすれば、税法上消費税でないものを消費税とみなして前述のただし書きの処理をすることを認めていることとなり、おかしな話です。
 が、しかし、これは、これまで放置されてきた実務でもあります。
 そんな訳で、この点は、当局に確認しても、私達にも良く分かりません、ということかもしれません。

インボイス制度導入後の実務対応

 さて、それではインボイス制度導入後、源泉徴収義務者はどのように対応すべきでしょうか。
 インボイス制度導入後は、インボイスを送ってこない相手先のほとんどは免税事業者と推測されます。
 そこで、税務上の本来の姿に従い、免税事業者に対しては、請求書上、消費税は記載しないように求め、「請求総額×10.21%(または20.42%)」で源泉徴収を行うことが、すっきりして良いのでは、と思います。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です