会計ソフトfreee(フリー)との10ヶ月 メリット・デメリット
経理アウトソーシングの受託があり、会計ソフトfreee(フリー)を使い始めて10ヶ月です。
このソフトはクラウドで、ブラウザからfreeeのサイトにログインして、作業します。
データはfreee社のサーバー上に保存されます。
クラウドであること以外に、経理業務の自動化、効率化のための仕組がたくさん盛り込まれています。
freee(フリー)という名前ですが、使用料無料ではありません。
フリーソフトという意味でもなく、上場企業でも使用している会社がある信頼性の高いものです。
さて、freeeを10ヶ月使って登録した仕訳数は、約9000本。
まずまずの量を使いました。
フリー社のキャッチコピーは「スモールビジネスを、世界の主役に」です。
ですが、使ってみたところ、仕訳数が多い中堅企業以上向けのソフト、そこでこそ真価が出るもの、と感じました。
以下、使用感を書いてみます。
便利なところ(メリット)
・インターネットバンキングからの預金データの吸い上げ(同期)
インターネットバンキングのサイトから、預金データ(取引日・入金額・出金額・摘要)を会計freeeに吸い上げます。
吸い上げられたデータは、未登録の預金データとして表示されます。
その後は、この未登録データに対して、これは売掛金の回収、これは買掛金の支払、これは借入金の返済、といった形で、登録してゆきます。
私が20代のころに担当していた上場準備中の某ベンチャー企業。
ベンチャーらしく、経理は少人数体制。
経理の方が、預金通帳を見ながら仕訳をしていくのですが、どこかで仕訳を漏らします。
上場準備のための会計監査をしていたのですが、通帳の残高と会計データの残高が全然合いません。
こうなると、当時は、どこで仕訳を漏らしたか確認するために、預金通帳と会計データを一つずつ突き合わせるしか手がありませんでした。
結局、徹夜に近い作業して、おびただしい量の仕訳漏れ(というか、担当者が単にサボっていた分?故意?)が判明。
会計freeeでは、こういう悲しい目に合わなくて済みます。
未登録の預金データはデータ化され、表示されます。
仕訳の済んでいない入出金は、いつもはっきりわかります。
未登録データを全て登録すれば、通帳の残高と会計データの残高は必ず一致します。
仕組みにより、処理ミスが防止されています。
仕組みにより守られている感じです。
この預金データの吸い上げ(同期)をするには、ちょっと手間がかかります。
事前に、インターネットバンキングのサイト経由で電子証明書を取ったり、銀行からICカードを発行してもらう等の手続が必要です。
一行あたり数時間、かかってしまうかもしれません。
ですが、その後の処理はかなり楽に、正確になりますので、最初の手間は惜しまない方が良いです。
・債権債務の消し込みがラクラク
商品を売った時:売掛金 / 売上
代金を回収した時:預金 / 売掛金
この代金を回収した時の仕訳が、売掛金の消し込みです。
買掛金や未払金にも消し込みがあります。
古い会計ソフトでは、この消し込みが一手間でした。
預金に50万、A社から売上代金の振り込みがありました。
この場合、まず、売掛金の帳簿データの中から、A社に対する50万の売掛金を目視で探します。
まず、消し込みの対象となる売掛金がちゃんと計上されていることを確認するのです。
いくつかの売掛金がまとめて振り込まれている時は、結構、面倒な作業になります。
次に、消し込みの仕訳を入力します。
入金のあった日付を入力し、勘定科目(◯◯銀行◯◯支店普通預金、売掛金◯◯社)を選択し、金額を50万と入力します。
一方、会計freeeでは、消し込みはかなりラクです。
会計freeeでは、計上した売掛金毎に、金額・売上日・取引先名・入金予定日等をデータとして持っています。
売掛金一件毎に、これらを記録したカードが作られていくイメージです。
そして、未登録の預金データを登録して行く際に、入金額と入金予定日から、会計freeeが、「この入金はこのカードの売掛金の入金ですか?」と推測してきます。
その通りであれば、ボタンを押します。
すると、消し込みの仕訳が作成されます。
いくつかの売掛金がまとめて入金されている場合、もう少し手間が掛かります。
その取引先に対する売掛金カードを並べて、対象となりそうなものにチェックマークを付けてゆき、表示される合計額と入金額の一致を確認する流れになります。
にしても、古い会計ソフトと比べると、電卓やエクセルも要らず、とてもラクです。
一時間で何十件もの売掛金や買掛金、未払金の消し込みが完了します。
これは、最初、爽快でした。
ちょっとした目視とボタンクリックするだけでどんどん片付いてゆく。
こうなってくると、経理の仕事もボリュームが減ってゆきます。
今までは収入になっていた作業が、少しずつ、無駄な、不要な作業に変わってゆきます。
自分にも当てはまることですが、そこはもう、技術の進歩にさっさと飲み込まれた上で、別の価値を提供していくしかないと思います。
また、経営上は、コストダウンのために、技術をどんどん取り入れないといけないと思います。
ちなみに、消し込みの完全自動化もできるようですが、弊所ではまだ試行していません。
現在のやり方でもそれほど工数は掛からないので、そこで安住しています。
でも安住していては進歩がないので、そろそろ、完全自動化も試してみようと思います。
・自動仕訳
預金データを吸い上げると同時に、自動で仕訳してしまうこともできます。
例えば、預金データの摘要に「フリコミテスウリョウ」と表示されている出金は、「支払手数料/預金」と登録しなさい、と設定します。
すると、インターネットバンキングからの預金データの吸い上げる毎に、自動で仕訳がなされます。
何百件とある振込手数料の支払も、一瞬で仕訳が済みます。
昔は一本一本通帳を見ながら入力していましたから、本当に楽になってきた、同時に、単純な入力作業という仕事は消えた、と思います。
他にも、摘要の内容をキーにして、自動仕訳を設定できます。
・補助科目の設定もラクラク
従来の会計ソフトだと、例えば売掛金の帳簿データを得意先毎に表示させたい場合には、補助科目の設定が必要でした。
そして、補助科目の設定は、売掛金の計上の前に、予め別の設定画面で行っておく必要がありました。
これが結構面倒で、結局、大口の得意先以外については、補助科目の設定を止めてしまうのですね。
すると、色々な得意先への売掛金が混在した帳簿データになってしまい、ある得意先への売掛金を探すのに一苦労、という状況になってしまいます。
会計freeeは、この点もラクです。
まず、会計freeeでは、補助科目という枠組みでなく、売掛金一つ一つに、取引先、品目、部門というタグを付けて行きます。
このタグは、売掛金を計上する際に、同時に設定できます。
その都度、取引先「A社」とか、品目「◯◯製品」と入力するだけです。
一度設定したタグを再度使うときは、検索で簡単に呼び出せます。
これだと小口の得意先も登録しようという気になります。
そして、取引先や品目、部門といったタグ毎に、売掛金データを表示できます。
月次の損益計算書や貸借対照表を、タグ毎に明細にして表示することもできます。
タグをキーワードにして、入力済みの仕訳を横断的に検索することもできます。
エクセルデータに対して、フィルタを掛けたり、ピポットテーブルを使ったり、検索したりするのと近い感じです。
ベースのデータに色々なタグを持たせた、そのデータを自由に操作できる。
このような設計思想は、かなり好きです。
・ローコストで、多人数がそれぞれの場所で作業できる
お客様もリアルタイムで決算を閲覧できる
クラウドなので、サーバーその他設備を導入しなくても、ネットに繋がる環境さえあれば、多人数がそれぞれの場所で作業できます。
コロナ以降、弊所のアシスタントの方もテレワークに切り替えていますが、なんの設備投資も要りませんでした。
これは本当に、クラウドソフトを選択しておいて良かったです。
そして、クラウドなので、弊所のアシスタントの方が行った作業内容を、他の場所からリアルタイムで確認できます。
弊所のお客様も同様に、リアルタイムで、決算数値を確認できます。
コロナが収束した後においても、業種によっては、テレワークは続いていくと思います。
テレワークの方が生産性が高い、コミュニケーション効率が高い(実は会社でのコミュニケーションの一部は要らなかった?)という業務があると思います。
安易に口頭で話し合えない環境下に置かれると、各人が深く物事を考えるようになり、その結果、生産性が高まるのでは、と思います。
また、長い通勤時間は従業員の人生にとって大きな損失ですし、会社にとっても家賃や従業員の交通費を払わなくて済みます。
そして、小規模企業がテレワークを行う際のローコストなインフラとして、色々なクラウドソフトが定着していくのでは、と思います。
悩ましいところ(デメリット)
・操作方法が独特です
従来型の会計ソフトと操作方法がかなり違います。
慣れればなるほど、うん、合理的、と思います。
しかし、慣れるまでは、大変かもしれません。
よく言われるのは「仕訳が切れない(登録できない)」ということです。
これは、仕訳の登録方法がわかりにくい、今までのと感覚が違う、という意見です。
(会計ソフトなのでもちろん仕訳は切れますよ。)
例えば、「売掛金 / 売上」という仕訳を登録しようとします。
従来型の会計ソフトだと、売掛金と売上という勘定科目を選択して、日にちと金額を入れるだけです。
一方、会計freeeでは、まず、取引の登録という画面を開き、収入ボタンを押し、未決済ボタンを押し、勘定科目で売上高を選択し、支払予定日も入力するという、一見すると何コレ?な操作も必要になります。
これは、先に説明した、消し込みのための売掛金カードを作る作業です。
ですが、従来型のソフトに馴染んでいると、何でこんなことが必要なの、もう何コレ嫌と思う人もいるかもしれません。
私は、消し込み性能の高さを考えると、この工程にかかる労力は小さなものだと思いますが・・・・・。
・ちょっとガイドが欲しい部分
A銀行の口座からB銀行の口座に資金を5万円移動しました。
これについて、預金データを登録する場合です。
A銀行の未登録データに「B銀行預金5万/A銀行預金5万」と登録します。
そして、B銀行の未登録データに対しては「B銀行預金5万/A銀行預金5万」と登録。
すると、できあがった仕訳は「B銀行預金10万/A銀行預金10万」になってしまいます。
つまり、仕訳がダブります。
これを防ぐには、A銀行の未登録データに対し、無視という登録をして必要があるのですが・・・・・ちょっと想像できませんでした。
仕訳を推測してくる位ですから、自動でうまく処理してくれると思い込んでいましたが・・・・・。
ちょっとしたガイドが画面に表示されてくれないかなぁ、とは思います。
もちろんウェブで検索すればマニュアルが出てきますが、大抵はおかしい数値が出た後でこれを見るという流れになってしまうので・・・・・。
小口現金出納帳のエクセルデータを取り込んだ際の消費税についても、同じようなことがありました。
経費(消耗品費や会議費)は自動で消費税を計算してくれると思っていましたが、全て非課税で仕訳されていました。
これもちょっと想像できなかったです。
気づくのに遅れ、お客さんにお詫びです。
マニュアルによると、取り込むエクセルデータには、一件ずつ消費税額を入力しておく必要があるとのこと。
これもガイドが表示されないかなぁ、と思いました。
・請求書や領収書の画像データの読み込み
請求書や領収書の画像データを読み込み、仕訳を推測する機能があります。
こちらは、最初に試行して以来、使っていません。
請求書や領収書をスキャンしてPDF化し、freeeにアップする作業が結構手間なのです。 また、画像データ読み込みの精度が今一歩でした。
読取革命などのOCRソフトもそうですが、文字の認識は、なかなか難しいですね。
紙媒体を電子データに変換する技術より、請求書や領収書自体の電子化の方が先に来るような気もします。
日付、金額、相手先はこのデータ群を吸い上げて登録完了という時代が来るかもしれません。
・ごくまれに遅い
常時ウェブ接続しているので、スタンドアローンのソフトほどはサクサク動きません。
しかし、普通に作業する分には支障のないスピードです。
イライラするほど遅いことは、たまにしかありません。
以上、使用感でした。
その他、使っていて怖いと思うこと。
弊所の業務上、freeeは不可欠なインフラになっているので、急に価格改定されたり、仕様変更されたらたまらないなぁ、と思います。
一強が独占支配して強引なビジネスを押しつけてくる、といえばマイクロソフトですが、ああいうやり方だけは勘弁です。
そういう意味では、ユーザーにとっては、クラウド会計も、何社かが競合している状況が良いと思います。
うーん、マネーフォワードも使ってみなければ・・・・・。