非上場株式の税務上の時価(株価)・売買 - 純然たる第三者間において種々の経済性を考慮して定められた取引価額 その2
さて、その1に続き、判例・裁決を見て行きます。
2.平成11年2月8日国税不服審判所裁決における原処分庁主張
【事案】
親会社が子会社株をその子会社の代表取締役に売却した事案です。売却後の持株比率は親会社が42.5%、子会社の代表取締役が40%となっています。
【原処分帳主張】
法人税法上、売買取引における取引価額については、それが純然たる第三者間において種々の経済性を考慮して定められた価額であれば、一般には常に合理的なものとして是認されるが、本件譲渡のように、親会社と子会社の代表者との譲渡で純然たる第三者間の取引ではなく、かつ、その合意価額が合理的に算定されていないと認められる場合には、当事者間の合意があったとしてもその合意価額は客観的交換価値を示すものとは認められない。
(なお、不服審判所として上記主張に対する明確な判断はありませんが、上記主張は当然のものとして肯定したものと思われます。)
3.熊本地方裁判所 平成28年9月21日判決
【事案】
株式の買手は法人で、株式売買直前の持株割合50.6%、売買後の持株割合100%となった事案です。
【裁判所の判断】
1株当たり5万円という本件株式の取引価額が適正な価額といえるか否かにつき検討すると、本件株式の譲渡人である本件少数株主が、いずれも譲渡時においてA(売買対象株式の発行会社)の役員、従業員又は役員の妻であった者であり〔前提事実(2)ア、イ〕、純然たる第三者ではないことからすれば、本件株式の価額は、当事者間において種々の経済性を考慮して定められた価額であるとは認められない。
上記の判例をまとめますと、次の通りです。
以下2者は純然たる第三者に該当しない。
[親会社(過半数所有)] と [子会社の代表取締役]
[親会社(過半数所有)] と [子会社の役員、従業員、役員の親族]
上記は言い換えると、
[売買対象株式の発行会社の大株主(過半数所有)] と [売買対象株式の発行会社の代表取締役]
[売買対象株式の発行会社の大株主(過半数所有)] と [売買対象株式の発行会社の役員、従業員、役員の親族]
となります。
さて、それでは、近いケースを考えてみます。
以下の場合、2者は純然たる第三者に該当するのでしょうか?
売手:売買対象株式の発行会社の役員、役員の親族
買手:売買対象株式の発行会社の得意先(株主ではない)
これは、例えば、メーカー(得意先)が、サプライヤー(発行会社)との関係強化のために株式を一部持ちたいと提案するケースですね。
発行会社側にも、創業家出身の役員が持株の換金を希望している、という背景があったりします。
さて、これは、純然たる第三者間の取引に該当するのでしょうか?
そりゃ当然該当しますよ、と言ってしまいそうになります。
しかし、先のタキゲン事件の差戻高裁判例を読みますと、「実質的に見て両者が互いに自由な意思決定ができる独立・対等な立場にあった」と言えるのか、一抹の不安も出てきます。
というのは、発行会社としては商売上、大得意先の意向に逆らえない面も多く、故に、発行会社の役員もまた然りだからです。
しかし、株式の売買価格を決定する場面においてまで、大得意先が発行会社の役員を支配しているとまでは言えないのではないか、よって、純然たる第三者間の取引に該当するという理解が自然ではないか、と思います。
ただし、この売買の後に、株主となった得意先がさらに株式を買い増す場合には、また話が違ってくるように思いますが・・・・・。