非上場会社の従業員持株会 - 導入の目的・動機

 今回は、非上場会社において、何故、従業員持株会が導入されるのかについて、まとめてみます。
 (持株会の導入目的として、自社株を従業員に持たせることによる共同体意識の醸成や、従業員への福利厚生もあげられますが、これらが導入の直接のトリガーになっているわけではないと思います。)

1.株を手放したい株主がいる。その株の受皿としての導入

 株を手放したい株主の典型は、創業一族と思います。

 当初は創業者が自社株を100%保有していたが、そのまま全てを次世代に相続させると相続税が多額になる。
 そこで、従業員持株会を導入し、創業者の持株の一部を持株会に持たせる。
 いわゆる事業承継対策の一環です。

 あるいは、更に相続が進み、創業家でも、自社とかかわりのない方が出てくる。
 そういった方々が、株の換金を希望される。
 そこで従業員持株会が買い取る、といった流れです。

 また、取引先に自社株を持ってもらっていたが、取引先が諸事情により売却を希望されるケースもあります。

 多くのケースでは、IPOやM&Aは想定されていないため、従業員にはそれらによるキャピタルゲインと別の、経済的なメリットを与える必要があります。
 そこで、拠出金に対する奨励金を付与し、配当も行う必要があります。
 従業員への福利厚生も兼ねるわけです。

 ちなみに、過去に会社四季報(2023年度版)で調べたところ、持株会の持株比率が100%の会社が3社ほどありました。
 創業家の持株を持株会が買い取って行ったら最終的にこうなったのか、あるいはEBO(従業員による企業買収)のような経緯があったのか、興味の尽きないところです。

2.M&A(もしかしたらのIPO)の時にキャピタルゲインを得たいという従業員のニーズに応えるための導入

 IPOできるのは一部の会社に限られますが、M&Aは一般的な、良くあることです。
 そして、M&Aの際に従業員もキャピタルゲインを得たい、というニーズはあると思います。特にスタートアップ企業、ベンチャー企業の従業員の方々はそうではないでしょうか。

 さて、IPOを前提とするなら従業員持株会でなく、ストックオプションで良いのでは、とも思われます。
 IPOは難しい(または、したくない)が、M&Aならありうる、というケースでも、「M&A対応型ストックオプション」というものがあるようです。

 そうなると、どうして従業員持株会を導入するのだ、オプションとの違いは何だ、ということになります。

 この点については、まずは株主となってもらい従業員に共同体意識を持ってもらおう、とか、奨励金や配当により従業員に報いたい、という目的も併せて実現しようとすれば、ストックオプションでなく従業員持株会を選択することになるかと思います。
 これらをまず実現させた上で、M&Aが起きれば、さらに従業員にキャピタルゲインで報いることができる、という発想です。

3.変動型の持株会株価により従業員にキャピタルゲインを得てもらうための導入

 最近、数件ですが、こういった問い合わせがありました。
 これまでの非上場会社の従業員持株会では、退会時を除いて、従業員が持株を他の従業員に売ることは、基本的には想定されていませんでした。
 その制約を外し、退会せずとも、株を(ある程度は)自由に売れることにしよう。
 そして、例えば、自社の純資産に連動して変動する持株会株価にしよう。
 それで、業績が好調で持株会株価が上昇した際には、売り希望の従業員には他の従業員に株を売ってもらい、キャピタルゲインを得てもらおう、という考えです。
 疑似的な株式市場として従業員持株会を導入したいという発想です。

 これを実際にやろうとすると、色々と神経を使うことが多いと思います。
 例えばですが、従業員が、株価の変動に応じて、利食いや損切のために株を一斉に売り始めたら、持株会は畳まざるを得ません。
 買い希望の従業員がいない限り在会中は売れない、というルールにしておいても、退会してでも売るという従業員が続出したら、やはりそうなります。
 その時は、誰かが、持株会から株を買い取る受皿にならないといけません。
 自社が受皿として持株会から買い取るなら、売却した従業員にはみなし配当課税がされます。持株会内で売却した時に課された株式譲渡所得課税とは異なる税負担となり、不公平といえば、不公平です。
 もちろん、自社からの資金流出もありますし・・・・・。

 このタイプの持株会の根底にあるのは、従業員が頑張れば株価が上がってキャピタルゲインが得られる、従業員のモチベーション向上と財産形成を両立できる、という考えです。
 そして、持株会内で需給が上手くマッチする(=疑似的な株式市場が上手く回っている)限り、会社の負担なく従業員にキャピタルゲインを得させることができます。

 しかし、高成長を毎年着々と続けている会社ならキャピタルゲインは確実かもしれませんが、そういう会社でなければキャピタルロスが生じる可能性もあります。
 そして、上場株と同じく、売り抜けるタイミングが重要で、その見極め次第で得する従業員、損する従業員が出てきます。
 そうなると、固定型の持株会株価で、奨励金や配当がある程度もらえ、M&Aがあればさらにキャピタルゲインが得られるという、一般的な持株会を好まれる従業員の方もいらっしゃるかとは思います。

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