非上場会社の従業員持株会 - 剰余金の配当について異なる定めの単純な限界(種類株式)
ある会社に種類株を導入します。
A種株とします。
これは無議決権株です。
そして、普通株とA種株それぞれの配当は、都度、株主総会で自由に決める。
こんなことができたら、色々と都合が良さそうです。
例えば、成長途上のベンチャー企業。
持株会を作って、従業員にはA種株を持たせる。
M&AかIPOの時にはA種株を売ってもらい、利益を得てもらう予定です。
会社には資金需要が多いので、A種株への配当は難しい。
ただ、利益が大きく出た年に限っては、配当をしてあげたい。
普通株は、創業者が保有しています。
こちらも現時点では、配当は想定していません。
ただ、状況によっては、配当する可能性もあります。
こんな時、「A種株の配当は株主総会で決定する」と、ただ定款にそれだけ定めて、その通りに実務を進められれば、非常に便利です。
ところが、そうはいきません。
A種株については、以下のような定めが必要となるのです。
・優先配当の定め
配当する時は、普通株主に先立ち、A種株主に一株当たり〇円の配当金を支払う
・配当比率の定め
配当をする時は、A種株主に、普通株主への配当金の〇〇%の配当金を支払う
(何も定めなければ、A種株と普通株は同額の配当となります)
なぜ、「A種株の配当は株主総会で決定する」だけでは駄目なのでしょうか。
文献に以下の記載がありました。
逐条解説会社法 第2巻 株式1(第1版)
「配当額の決定方法も種類株式の内容の一部であるから、他の種類の株主が当該種類株式の創設によって受ける影響を合理的に判断できる程度に明確でなければならない。また、発行時において、当該種類株式の発行が有利発行(会社199条3項)に該当するものであるか否かを判断する機会を既存の株主に保障しなければならないから、種類株式の価値決定の要因となる配当額の決定方法は、そのような判断が可能な程度に明確に定められなければならない」
つまり、「A種株の配当は(都度自由に)株主総会で決定する」のでは、普通株主が、A種株発行による会社からの資金流出額を想定できず、A種株発行の是非を判断できないから駄目だ、ということのようです。
でも、普通株主(創業者)が納得してれば良いんじゃないの?
僕の会社のことだし、自由にさせてよ。
確かにそうです。
しかし、普通株主に多数派と少数派がいると想定すると、話が違ってきます。
多数派の普通株主の意向で、好き勝手にA種株に配当できてしまうとすれば、少数派の普通株主の損害は大きいです。
また、少数派は、A種株への好き勝手な配当に納得できないとしても、その持株を直ちに売却できるとは限りません。
そうなると、当初から、好き勝手な配当はできないとしておくのも、おかしくはないのかな、とも思います。
さて、以上のように書いておきながら、私はどこかの打合せで、「種類株を導入すれば別々に配当を決められますよ」と答えてしまいそうです。
「剰余金の配当について異なる定め」という条文のフレーズから自然に連想されるのは、私の場合、どうしてもそこなのです。