従業員持株会の奨励金は社会保険料計算上の報酬に含まれるか?
従業員持株会の奨励金は社会保険料計算上の報酬となるか?
ネットや文献で調べますと、
・持株会への加入が強制:報酬に含める
・持株会への加入が任意:報酬に含めない
・任意でも従業員の「大半」が加入:報酬に含める
という記述が多いです。
ここで、・・・・・?、となりました。
「大半」でなく「ほとんど」では?
形式的に任意でも実態的に強制だったら報酬に含める、との趣旨じゃないの?
であれば「ほとんど」では?
そこでリサーチしてみました。
奨励金に対する各省の見解について
(出典:持株制度運用の実務(改定三版)太田昭和監査法人214頁)
新従業貝持株制皮において会社が従業員に与える奨励金および特別奨励金は
①失業保険、労災保険、割増賃金・・・・・(労働省関係)
②健康保険、厚生年金・・・(厚生省関係)
の算定基準額の対象となるかどうかについて,野村證券持株制度部の照会に対する関係各省の回答は次のとおり。
労働省関係
労働基準局賃金部,小鴨光男部長より昭和44年5月9日、口頭にて「従業員持株制度における奨励金は労働基準法第11条にいう賃金として取扱わない。」
職業安定局失業保険課からは広見係長より昭和44年5月17日、口頭にて「労働省労働基準局賃金部と同じ解釈をとり,失業保険法第4条にいう賃金と見なさない。」
厚生省関係
厚生省保険局保険課,正木馨課長補佐より昭和44年8月1日,口頭にて「労働省の見解と同一の歩調をとり,健康保険法第2条①の報酬あるいは厚生年金法第3条①8号にいう労働の対償として取り扱わない。ただし持株制度への加入は,自由意志にもとづくものであるという条件付である。」
上記は野村證券が従業員持株会制度を創設した当時、厚生省に確認した結果です。
今日の取り扱いのルーツとなるものと思います。
「自由意思」という言葉が出てきます。
「自由意思」がない状態を想定すれば、結論は「ほとんど」と思われます。
年金記録に係る苦情のあっせん等について(年金記録確認関東地方第三者委員会東京地方事務室分、平成26年2月26日報道資料抜粋)
https://www.soumu.go.jp/main_content/000279460.pdf
「一方、持株奨励金に係る取扱いについて、日本年金機構は、自社株投資会への加入が被保険者の自由意思に基づくものであっても、実態的にほとんどの被保険者が加入しているような場合は報酬に含むが、原則として報酬に含まない旨回答している。」(関東東京厚生年金 事案24898より抜粋)
ここでは「ほとんど」とされています。
しかし、ネットの情報だけでは不安なので、この日本年金機構の回答が通達類や書籍で掲載されていないか、探しました。
延々と探しましたが、しかし、ありません。
そこで、社労士さんに年金事務所に照会してもらいました。
年金事務所の回答
年金事務所の内部資料である疑義照会(開示不可)では、
①「大半」でなく「ほとんど」とされている
②従業員の50%が加入している場合、「任意」として判断してよいとされている
とされている、とのことでした。
ああ、②が誤解を招いているのかもしれないな、と思いました。
②は、
「大半」である50%が加入していても任意だよ、すなわち、「大半」でなく「ほとんど」だよ、
との趣旨で書かれたのでしょうが、
50%超加入したら「強制」と判断するよ、という誤った反対解釈が世に広まってしまったのかも、と思いました。
うーん、日本語は難しいです。
今年は持株会案件が多く、色々な経験を積み、この分野を更に深めることができました。
ありがとうございます。
弊所の非上場会社の従業員持株会コラム
非上場会社の従業員持株会 - 他の株主から既発行株式を取得するための臨時拠出金への奨励金を支給できるか?
従業員持株会に加入できるグループ会社の範囲(孫会社、関連会社等)
非上場会社の従業員持株会 - モチベーションを高める制度設計
非上場会社の従業員持株会の解散(廃止) - 自己株式取得とみなし配当
非上場会社の従業員持株会の解散(廃止)- 退会者に対する会社の株式代金支払義務
非上場会社の従業員持株会 - 有価証券報告書提出義務、配当再投資、一人株主
非上場会社の従業員持株会 - 持株会による借入とパススルー課税
非上場会社の従業員持株会の解散(廃止)- 多数決による持株会解散の可否