非上場会社の従業員持株会 - モチベーションを高める制度設計
一般に、非上場会社の従業員持株会では、株価は固定価格です。
買うときも、退会して売るときも、同じ価格で、キャピタルゲインもロスもなしです。
そして、一定割合の奨励金や、安定した配当により、利回りも固定的です。
つまり、会社の業績が良くても、悪くても、何も変わりがないのです。
よって、従業員のモチベーションを高める効果は、あまりないと思います。
私の経験した事例です。
会社で業績をあげている、貢献度の高い従業員が持株会に加入もしていません。
一方、社内ではぱっとしないおばちゃんが、持株会内の大株主になっています。
(会社が潰れない限り)元本保証で、利回りが年5%~10%もあるのですから、目ざとい人は、買いますよね。
それで、そこには単なる投資としての意味しかないのだと思います。
このおばちゃんは、経営に参画することなど考えたこともないのでは、と思います。
そこで、モチベーション向上を主目的に、制度設計するとどうなるでしょうか?
まずは、配当性向(配当÷当期利益)を一定割合に固定した上で、利益に比例した配当することが考えられます。
そして、奨励金は少なめに、配当金は多めにします。
利益が出るほど配当が増えるので頑張る、という効果です。
なお、現実には、配当の最低額保証は必要と思います。
でないと、赤字が続くと退会者が続出して持株会が立ち行かなくなります。
また、オーナー一族等への配当はさほど要らない場合には、持株会に供給するのは種類株にします。
なお、この方法には、税務上の問題点があります。
固定株価 < 配当還元株価(=直前2期平均配当÷0.1)となった場合です。
この場合、退会者から固定株価で株式を取得した会員に対し、配当還元株価と固定株価との差額に相当する贈与を受けたとして、贈与税が課されるリスクがあります。
財産評価基本通達によれば、株の時価は持株会株価(固定株価)でなく、配当還元株価だということです。
ただ、現実には、贈与を受けたとされる金額が、贈与税の基礎控除額110万円に収まるケースが多いと思われます。
また、基礎控除額を超えるとしても、高額の贈与税額を追徴できるケースは稀でしょう。
一方で、税務訴訟となれば、「現実には持株会株価(固定株価)でしか換金できないのに、会員にこのような課税が生じるのはおかしい」という主張が勝ってしまうかもしれません。
よって、税務調査で着目されても、結局はスルーされるケースが多いだろうと思います。
また、株価を固定株価でなく、財務指標に連動した変動株価にすることも考えられます。
利益が出るほど、あるいは純資産が蓄積されるほどキャピタルゲインが得られるので頑張る、という効果です。
こちらは、キャピタルロスのリスクもあるので、ロイヤリティの高い従業員しか入会しないかもしれません。
ただ、大化けの可能性もあり、夢のある話です。
一般的には、持株会に在会中の株式売却は認めないので、定年退職による退会時までの長期投資となります。
途中で任意退会して売り抜ける人も出てくるとは思いますが・・・・・。
ただ、変動株価は、需給バランスを調整するのが難しいです。
上手く調整できれば、従業員のモチベーションを高める効果は高いとは思います。
しかし、需給バランスが崩れ、固定株価に切り替えるケースも多いのではないでしょうか。
あるいは、継続して株式を保有するインセンティブとして、ある程度の配当金を確保した上で、緩やかな変動株価によるキャピタルゲインを付与する形に落ち着くケースも多いかと思います。
更に、上記の制度について、入会資格を役職者に絞り込む、あるいは、役職に応じて保有株数の上限を設けることも考えられます。
貢献度の高い従業員にインセンティブを集中させます。
ところで、このような業績連動型のインセンティブ制度を導入したら、従業員のモチベーションは本当に上がるのでしょうか。
そこが、いつも私が疑問に思ってしまうところです。
この類の仕組みは、自分個人の成果が評価されるものではありません。
自分は、体に鞭を打ち続けて凄まじい売上を上げた。
しかし、他の社員は不調、ないし、のんびりやっている。
それで、会社全体として結局減益、となると、配当金もキャピタルゲインも下がります。
あれ、私の努力は報われないの?となります。
逆に、フリーライダーとして、怠けたまま儲ける社員も出てきます。
そうすると、業績賞与の方が良いのではないか?
まずは個の貢献を評価することで、個の成果を高める。
個の成果の集積として、全体、すなわち、会社の業績も上がる。
こちらの方が合理的ではないか、と思ってしまうのです。
でも、この点は、また違う考えがあるとも思います。
全体を連帯させた上で高める、
みんなで頑張って全体で好業績を達成したら見返りが得られるよ、
だからみんな団結して頑張ろう、といった狙い、一体感の醸成、
全体から個への還元という効果があるのかなと思います。
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