非上場会社の従業員持株会の解散(廃止)- 退会者に対する会社の株式代金支払義務
従業員持株会は、法律上、会社とは別個の存在です。
従業員持株会は、社員が独自に立ち上げ、主体的に意思決定し、主体的に運営します。
会社からの独立性が求められます。
そして、会社は、持株会に対し、事務処理等の若干のサポートをするに過ぎません。
と、ここまでは建前論で、実態は違いますよね。
実態は、従業員持株会は、会社が主体となって制度設計して、立ち上げます。
その運営も会社が主体です。
こういったケースがほとんどと思います。
けれども、この建前に反した実態でも、
持株会内で、株式の需給が合っていて、
持株会が上手く回っているうちは、支障はないのです。
(持株会が子会社に該当し親会社株式の保有に当たるという空論はさておき)
しかし、持株会が破綻してくると、そうではなくなります。
会社の経営が悪化し、配当が減り、株式が投資対象としての魅力を失い、退会者が増えてくる。
一方で、新規入会がない。
そうなると、退会者の持株を買い取れなくなります。
怒った退会者は、会社に株式を買い取るよう請求するでしょう。
この時、上記の建前が守られていなければ、
すなわち、持株会と会社が一体なら、
会社には退会者の株式の代金を支払う義務がある、とした判例があります。
(ドラール事件、札幌地裁 平成14年2月15日)
この判例で、持株会と会社が一体であると認定した理由は、次の通りです。
・持株会は会社主導で組織され、固有の電話番号も持たない組織である等、会社が少なからず関与している
→ 今まで気にしたことがなかったですが、固有の電話番号を持っている持株会は珍しいのでは?
・退会届が、社長と担当部長の決裁が予定された書式となっており、社長宛に提出される
→ これはまずい。決裁がないと退会できない運営だったとしたら、いよいよまずい。
・退会清算金について、会社から通知される
→ これもまずいです。
・持株会には、会員全員が集まって意思決定する機会がない
→ 会員全員では集まらない代わりに、議題(理事改選や規約変更)について異議申し出の機会を設けるのが一般的と思います。
この事例は、それもしていない、ということかもしれません。
・持株会の財政状況について会員に報告される機会もない
→ これもまずい。
判例では、上記の点から、持株会を民法上の組合と定める規約等があるといえども、
実態としては、持株会は会社の一部局である。
よって、退会者の株式の精算に係る債務は、会社に帰属する、としています。
ですので、
「持株会と会社は法律上別個の存在、
だから、会社が持株会に関して責任を負うことはない
だから持株会なんかほっておけばよい」とは限りません。
もちろん、持株会が上手く回っている間は、このような問題はありません。
また、同じ点が争われた他の事件もあります(ニックス事件、東京地裁平成19年7月3日)。
こちらは、上記の建前が、よくあるレベルで崩れている事案
(崩れているがドラール事件ほど激しくはない)でしたが、
持株会と会社が一体であるとは認定されませんでした。
(なお、ドラール事件では、株式を買い取る義務がある、とはされていません。
買い取らずして代金を精算せよ、とは?)
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