非上場会社の従業員持株会 - 有価証券報告書提出義務、配当再投資、一人株主
非上場会社でも、次の場合には、有価証券報告書の提出が必要です。
➀50名以上を相手に、1億円以上の株式の売出を行った
②株主が1,000人以上となった
有価証券報告書の提出は、非上場会社では大きなデメリットしかありません。
よって、上記①②に該当するのは、絶対にあってはならないことです。
それで、世間では、従業員持株会を一人株主と見なすには、配当再投資が必要と言われていますよね。
配当再投資とは、配当金を持株会の会員に支払わず、強制的に、持株会への拠出金として取り扱うことです。
それで、配当再投資をしていれば、上記①の場合には、持株会は一人とカウントされます。
例えば、持株会の会員数が50名以上で、オーナーが持株会に1億円以上の株式を売却した場合でも、その相手は1名とカウントされます。
よって、有価証券報告書の提出は要りません(その前段階の有価証券届出書も同じです)。
一方、配当再投資をしていなければ、全く同じことをしても、有価証券報告書の提出が必要です。
でも、上記②の場合は、そうではないんです。
配当再投資をしていなくても、持株会は一人株主としてカウントされます。
条文とガイドラインを見て行きます。
(とっても長いのですが、マーカー箇所だけ読んで頂ければと思います。)
金融商品取引法
第二十四条 有価証券の発行者である会社は、その会社が発行者である有価証券(特定有価証券を除く。次の各号を除き、以下この条において同じ。)が次に掲げる有価証券のいずれかに該当する場合には、内閣府令で定めるところにより、事業年度ごとに、当該会社の商号、当該会社の属する企業集団及び当該会社の経理の状況その他事業の内容に関する重要な事項その他の公益又は投資者保護のため必要かつ適当なものとして内閣府令で定める事項を記載した報告書(以下「有価証券報告書」という。)を、内国会社にあつては当該事業年度経過後三月以内(やむを得ない理由により当該期間内に提出できないと認められる場合には、内閣府令で定めるところにより、あらかじめ内閣総理大臣の承認を受けた期間内)、外国会社にあつては公益又は投資者保護のため必要かつ適当なものとして政令で定める期間内に、内閣総理大臣に提出しなければならない。ただし、当該有価証券が第三号に掲げる有価証券(株券その他の政令で定める有価証券に限る。)に該当する場合においてその発行者である会社(報告書提出開始年度(当該有価証券の募集又は売出しにつき第四条第一項本文、第二項本文若しくは第三項本文又は第二十三条の八第一項本文若しくは第二項の規定の適用を受けることとなつた日の属する事業年度をいい、当該報告書提出開始年度が複数あるときは、その直近のものをいう。)終了後五年を経過している場合に該当する会社に限る。)の当該事業年度の末日及び当該事業年度の開始の日前四年以内に開始した事業年度全ての末日における当該有価証券の所有者の数が政令で定めるところにより計算した数に満たない場合であつて有価証券報告書を提出しなくても公益又は投資者保護に欠けることがないものとして内閣府令で定めるところにより内閣総理大臣の承認を受けたとき、当該有価証券が第四号に掲げる有価証券に該当する場合において、その発行者である会社の資本金の額が当該事業年度の末日において五億円未満(当該有価証券が第二条第二項の規定により有価証券とみなされる有価証券投資事業権利等又は電子記録移転権利である場合にあつては、当該会社の資産の額として政令で定めるものの額が当該事業年度の末日において政令で定める額未満)であるとき、及び当該事業年度の末日における当該有価証券の所有者の数が政令で定める数に満たないとき、並びに当該有価証券が第三号又は第四号に掲げる有価証券に該当する場合において有価証券報告書を提出しなくても公益又は投資者保護に欠けることがないものとして政令で定めるところにより内閣総理大臣の承認を受けたときは、この限りでない。
一 金融商品取引所に上場されている有価証券(特定上場有価証券を除く。)
二 流通状況が前号に掲げる有価証券に準ずるものとして政令で定める有価証券(流通状況が特定上場有価証券に準ずるものとして政令で定める有価証券を除く。)
三 その募集又は売出しにつき第四条第一項本文、第二項本文若しくは第三項本文又は第二十三条の八第一項本文若しくは第二項の規定の適用を受けた有価証券(前二号に掲げるものを除く。)
四 当該会社が発行する有価証券(株券、第二条第二項の規定により有価証券とみなされる有価証券投資事業権利等及び電子記録移転権利その他の政令で定める有価証券に限る。)で、当該事業年度又は当該事業年度の開始の日前四年以内に開始した事業年度のいずれかの末日におけるその所有者の数が政令で定める数以上(当該有価証券が同項の規定により有価証券とみなされる有価証券投資事業権利等又は電子記録移転権利である場合にあつては、当該事業年度の末日におけるその所有者の数が政令で定める数以上)であるもの(前三号に掲げるものを除く。)
(以下略)
金融商品取引法施行令
(有価証券報告書の提出を要しないこととなる資産の額等)
第三条の六
(中略)
6 法第二十四条第一項第四号に規定する政令で定める数は、次の各号に掲げる有価証券の区分に応じ、当該各号に定める数とする。
一 株券、有価証券信託受益証券であつて受託有価証券が株券であるもの及び法第二条第一項第二十号に掲げる有価証券で株券に係る権利を表示するもの 千(これらの有価証券が特定投資家向け有価証券である場合には、千に内閣府令で定めるところにより計算した特定投資家の数を加えた数)
二 前号に掲げる有価証券以外の有価証券 五百
企業内容等の開示に関する留意事項について(企業内容等開示ガイドライン)
(「所有者の数が著しく少数」の取扱い)
24-6 法第24条第1項第4号に規定する所有者の数の算定に当たっては、当該株券の発行者が、例えば、普通株と優先株を発行している場合には、それぞれの株券の所有者数(当該株券を受託有価証券とする有価証券信託受益証券(当該株券と開示府令第16条の3第1号イに規定する権利内容が同一であるものに限る。)及び当該株券に係る権利を表示する預託証券を発行している場合は、これらの有価証券の所有者の数を合算した数)を合算せずに同号を適用することに留意する。
また、所有者の数の算定は、株主名簿に記載された者の数によることとなるので、株主名簿に「持株会」の名義で登録されている場合には、持株会を一人株主として取り扱うことに留意する。
曖昧さなく、語句がつながっていますね。
上記②の場合には、一人株主の要件として、配当再投資が要求されていない、と読めます。
でも、不安だったので、念押しでリサーチしてみました。
すると、「継続開示義務者の範囲 ―アメリカ法を中心に―」(公益財団法人 日本証券経済研究所 金融商品取引法研究会)という論文に、関連する記述がありました。
引用させて頂きます。
太田委員 大変示唆に富む報告をありがとうございました。私からは、外形基準のうちの株主数基準に関連するご質問をさせていただければと思います。私は実務家ですので、どうしても具体的問題から出発しないと物が考えられない性分なので、その観点からご質問させて頂ければと存じます。お配りいただいているご論考の原稿の16 ページの一番上あたりに出てくる持株会の話、要するに、株主数をカウントするときに、実質株主ベースではなくて名簿基準が使われているという話ですけれども、私が実務で接する限り、日本の非上場会社でかなり大きな会社、かつ実質株主がたくさんいる会社の多くは従業員持株会を持っています。中には、会社は「家族」であるということで、かなりの従業員に株式を持ってもらって、会社の所有者であるという意識を植えつけて経営をしている会社がある程度あります。別に現状の規制のあり方がおかしいというつもりはさらさらないのですが、現在、まさにご論稿に書かれておられるとおり、名簿基準ですので、従業員持株会の構成員が1000 人とかたくさんいても、名簿上には「持株会」としか載っていなければ、「1人」とカウントされ、外形基準に従って、継続開示の対象にならないわけです。しかしながら、この場合、会社は従業員に対して、「家族の一員として会社の所有者ですよ」といっているわけですので、規制のあり方、あるべき論として、持株会の場合に「持株会」と株主名簿に書いていれば、それを外形基準との関係では「1人」とカウントするというのが適切妥当であるのかどうかは、一応問題になるのではないかと思われます。今後これを直すべきなのか、それとも別にそれはそれで、それをジャスティファイする理由も十分にある考えるべきなのか、その辺りについて何かご見解があればお聞かせいただけると大変ありがたいと思います。
飯田報告者 大変重要なご指摘で、まさにアメリカも同じような問題を抱えています。登録株主、日本でいえば名簿株主の数を数えるということですから、500 人とか、1000 人、2000 人と言ってみたところで、かなりむなしい議論になっているのはまさにおっしゃるとおりです。株主名簿上1人だけれども、実質株主は1000 人、2000 人いますというのはよくあることだと言われております。それもあって、SEC の規則では、脱法目的でそういう組織形態を使うとそれは否認するという――租税法でもよくあるタイプの――ルールがありますけれども、それが実際に使われているかというと、必ずしも使われていないようです。アメリカも脱法するようなものは封じるというルールは存在するけれども、それがエンフォースされているかというと、かなり疑わしい状況であるようです。実質論で考えた場合に何を基準にするかというのはまさに難しいわけですけれども、流通性という観点を使って考えるのだとしたら、恐らく持株会の場合は取引されることはあまり想定されていないと思いますし、会社をやめるときにどうするかという問題もあるでしょうし、もしかしたら譲渡制限がかかっているかもしれません。そのあたりによってケース・バイ・ケースで違うのだろうということで、規制としてはなかなか入っていきにくい。実質株主を調べに行きなさいというルールになると、それは事実上、困難です。持株会であればわかりやすいですけれども、その他のケースでは実質がわからないということになると思いますから、困難である。裏を返せば、株主数基準を使うことの限界であって、株主数を基準とする制度はどんなに頑張ってもその程度の質というか、実体を捉えるものにはなりにくいものである、そういうことではないかと思っております。
太田委員 私が今の先生のご説明をお伺いしていて感じましたのは、別の考え方としては、「皆さんは会社の所有者の一員だ」と言って例えば2000 人もの従業員に株式を持たせていた場合、利害関係者、会社の内部情報について利害を持っている人の数は多いわけです。従いまして、外形基準のうち株主数基準といった場合に、従来からその趣旨は当該株式の流通性ということで説明されていますけれども、虚心坦懐に見れば、利害関係人が多いから開示するという発想も出てこなくはないようにも思われます。しかしながら、この点は、やはりそうではなくて、株主数はある意味で流通性の代理変数でしかないので、流通性の有無ということで考えていけば、今の従業員持株会に関する名簿基準のようなものも、それはそれとして十分是認できる、そんな感じに考えてもよいものでしょうか。
飯田報告者 流通性という観点から説明するという立場を前提とすれば、持株会が名簿上1人になっているからといって、特に問題視するようなことにはなっていないのではないかと思っています。
うーん、どこにも配当再投資の話はないですね。
ほっと一安心です。
ちなみに、➀50名以上を相手に、1億円以上の株式の売出を行う場合についての、一人株主の規定は次の通りです。
企業内容等の開示に関する留意事項について(企業内容等開示ガイドライン)
5-15 役員・従業員持株会に株式を譲渡する場合の取扱いに当たっては、おおむね次のような条件に合致している場合には、役員・従業員持株会を一人株主として取り扱うことができることに留意する。
① 株主名簿に「持株会」の名義で登録されていること。
② 議決権の行使は「持株会」が行うこと。
③ 配当金を「持株会」でプールし運用するシステムをとっていること。
「株式を譲渡する場合」という限定がありますね。
よって、上記②の場合には適用がありません。
非上場会社では、会員数が1,000人を超える持株会も珍しいので、この論点は、普段は考えなくも良いのですが、
故に、会員数が1,000人を超える持株会では、盲点となりがちです。
結果的には、盲点のままでも、セーフだったわけですが・・・・・。
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