非上場会社の従業員持株会 - 導入企業の実態調査

 会社四季報未上場会社版(2023年版、東洋経済)から、非上場会社における従業員持株会の状況を集計してみました。
 同四季報に掲載された4027社の詳細データがベースとなっています。
(本投稿のタイトルはかなり誇張です。実態は単に集計してみただけです。)

従業員持株会の持株比率

持株比率社数全体に占める割合
開示なし366.0%
~10%15626.1%
10%~20%21035.1%
20%~30%11018.4%
30%~40%467.7%
40%~50%223.7%
50%~60%61.0%
60%~70%10.2%
70%~80%40.7%
80%~90%40.7%
90%~100%30.5%
合計598100%

 
 ベースとなった4027社のうち、15%弱が従業員持株会を導入していることになります。
 4027社の中には株主を開示していない会社もありますので、実際はさらに多いかもしれません。
 株主総会特別決議事項への拒否権を与えないことを意識してか、従業員持株会の議決権比率を33%未満としている会社がほとんどです。
 また、従業員持株会の持株比率が100%の会社が3社ありました。まさに「コーオウンド・ビジネス(従業員が所有する会社)」ですね。

役員持株会の持株比率

持株比率社数全体に占める割合
開示なし33.2%
~10%3334.7%
10%~20%3031.6%
20%~30%1414.7%
30%~40%99.5%
40%~50%33.2%
50%~60%22.1%
80%~90%11.1%
合計95100%

 
 従業員持株会と比べ、役員持株会の導入社数はかなり減ります。
 役員には直接株を持たせる会社が多いのかもしれません。

従業員持株会・役員持株会と合わせた持株比率

持株比率社数全体に占める割合
開示なし386.3%
~10%15024.7%
10%~20%20032.9%
20%~30%10316.9%
30%~40%528.6%
40%~50%304.9%
50%~60%122.0%
60%~70%40.7%
70%~80%40.7%
80%~90%71.2%
90%~100%81.3%
合計608100%

 
 やはり分布としては33.3%未満が多いですね。
 また、従業員持株会と役員持株会を合わた持株比率が100%の会社が2社ありました。

従業員持株会導入会社の売上高・経常利益

【売上高(単体)】
売上高(単体)社数全体に占める割合
開示なし91.5%
50億未満10517.6%
50億~100億11519.2%
100億~200億15926.6%
200億~300億6410.7%
300億~400億396.5%
400億~500億274.5%
500億~600億193.2%
600億~700億132.2%
700億~800億71.2%
800億~900億81.3%
900億~1000億40.7%
1000億~294.8%
合計598100%
【経常利益(単体)】
経常利益(単体)社数全体に占める割合
開示なし6010.0%
赤字172.8%
~5億21135.3%
5億~10億10918.2%
10億~20億9616.1%
20億~30億427.0%
30億~40億172.8%
40億~50億122.0%
50億~60億61.0%
60億~70億30.5%
70億~80億40.7%
90億~100億30.5%
100億~183.0%
合計598100%

 
 上記からは、従業員持株会が中堅優良企業でも導入されていることがわかります。
 ちなみに、世間では、中小企業(非上場)の持株会の多くは拠出金不足に陥っているとか、実態のない持株会(幽霊持株会)が多いなどと言われます。
 しかし、それは中小企業の中でも小規模な会社の従業員持株会の話かと思います。
 会社四季報未上場会社版に掲載されたる会社の多くでは、業績は安定し、配当や奨励金も良好で、中長期的には、従業員持株会は安定的に運営されているのでは、と思われます。 

従業員持株会導入会社の総資産・純資産

【総資産(単体)】
総資産(単体)社数全体に占める割合
開示なし(注)13121.9%
~50億437.2%
50億~100億10217.1%
100億~200億13222.1%
200億~300億8714.5%
300億~400億355.9%
400億~500億223.7%
500億~600億142.3%
600億~700億101.7%
700億~800億71.2%
800億~900億40.7%
900億~1000億10.2%
1000億~101.7%
合計598100%
(注) 会社四季報未上場会社版では、連結総資産が開示されている会社については、単体総資産が開示されません。上記の開示なしにはこの類型も含まれます。
【純資産(単体)】
純資産(単体)社数全体に占める割合
マイナス20.3%
開示なし(注)13121.9%
~10億172.8%
10億~20億366.0%
20億~30億315.2%
30億~40億355.9%
40億~50億376.2%
50億~60億203.3%
60億~70億233.8%
70億~80億284.7%
80億~90億213.5%
90億~100億183.0%
100億~200億11318.9%
200億~300億437.2%
300億~400億183.0%
400億~500億122.0%
500億~1000億71.2%
1000億~61.0%
合計598100%
純資産(単体)は、会社四季報未上場会社版で開示された単体総資産と自己資本比率から計算した数値です。
(注) 会社四季報未上場会社版では、連結総資産が開示されている会社については、単体総資産が開示されません。上記の開示なしにはこの類型も含まれます。

 
 純資産50億超の会社が50%強を占めます。上記からも、従業員持株会が中堅優良企業でも導入されていることがわかります。

従業員持株会導入会社の従業員数

従業員数(単体と連結の多い方)社数全体に占める割合
開示なし50.8%
~99人7813.0%
100人~199人13722.9%
200人~299人11218.7%
300人~399人7011.7%
400人~499人6410.7%
500人~599人335.5%
600人~699人213.5%
700人~799人132.2%
800人~899人111.8%
900人~999人61.0%
1000人~1999人355.9%
2000人~132.2%
合計598100%

従業員持株会、役員持株会が株式を全て所有する会社の財務数値

(金額:百万円)

会社従業員持株会の持株比率役員持株会の持株比率持株比率合計売上高(単体)経常利益(単体)総資産(単体)純資産(単体)従業員数(単体)
A100%100%30,0813,69632,10017,109444
B100%100%22,187開示なし28,35618,119867
C100%100%19,82332910,1223,97848
D48.4%51.6%100%5,54960515,50113,780158
E75%25%100%39,5461,24525,3938,938153

 
 いずれも優良企業ですね。
 コーオウンド・ビジネス(従業員が所有する会社)については、私は昔は懐疑的に思っていました。
 それは、創業家という指導者・権力者がいなければ、非上場(=外部からの監視のない)の中小企業の経営は上手くいかないのではないか、と思っていたからです。
 従業員民主主義による会社経営では、従業員は働かずして食べることばかり求めるのではないか?
 従業員の中から選ばれる経営者は、自らの地位を守るために従業員を甘やかさるをえず、その結果、会社が駄目になってしまうのではないか?
 などと考えていたからです。

 しかし、M&Aで創業家がリタイアした後の会社経営を数年間観察して、案外何も変わらないのだな、と感じました。
 また、創業家の内情等を諸々垣間見て、創業家への幻想も薄らいで来ました。
 今では、コーオウンド・ビジネスが増えていくことも、良いことだと思っています。

弊所の非上場会社の従業員持株会コンサルティングのご紹介

弊所の非上場会社の従業員持株会コラム

 従業員持株会の奨励金は社会保険計算上の報酬に含まれるか?

 非上場会社の従業員持株会 - 他の株主から既発行株式を取得するための臨時拠出金への奨励金を支給できるか?

 従業員持株会に加入できるグループ会社の範囲(孫会社、関連会社等)

 非上場会社の従業員持株会 - モチベーションを高める制度設計

 非上場会社の従業員持株会の解散(廃止) - 自己株式取得とみなし配当

 非上場会社の従業員持株会の解散(廃止)- 退会者に対する会社の株式代金支払義務

 非上場会社の従業員持株会 - 有価証券報告書提出義務、配当再投資、一人株主

 非上場会社の従業員持株会 - 持株会による借入とパススルー課税

 非上場会社の従業員持株会 - 導入企業の実態調査

 非上場会社の従業員持株会の解散(廃止)- 多数決による持株会解散の可否

 非上場会社の従業員持株会の解散(廃止) - 借入金のある持株会の解散、自己株式取得とみなし配当

 非上場会社の従業員持株会 -株式分散防止効果

 非上場会社の従業員持株会 - 導入の目的・動機

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です