非上場会社の従業員持株会の解散(廃止)- 多数決による持株会解散の可否
従業員持株会を導入した。
会社の業績は悪くありませんが、一部の会員に株が偏ってしまうなど、色々と上手く行かない。
そこで、会社サイドとして、従業員持株会の解散を検討する、というのはよくある話と思います。
しかし、どのような手続を経れば従業員持株会を解散できるでしょうか?
会員全員の同意が必要なのでしょうか?
この点を示したものに、東京地裁平成18年6月26日判例(アットホーム事件)があります。
この判例では、「本件(持株会)規約上、規約の変更には少なくとも三分の二の賛成(三分の一以上の異議がないこと)が必要であることからすれば、本件解散決議にあっても三分の二の賛成の賛成をもって可決とするのが相当」とされています。
ここだけを読むと、持株会規約変更に必要な数の賛成があれば、解散できるように読めます。
この判例がそのように紹介されるケースも多いです。
しかし、一方で、ある組合員の既得権を奪うような組合契約の変更は、既得権を奪われる組合員の同意なしにはできないとする解釈もあります(新版注釈民法(17)債権(8)53頁)。
この解釈は、基本的には、解散の場合にも妥当するのではないでしょうか。
そして、持株会の解散は、会員の持株を取り上げることであり、配当受領権等の既得権を奪うことに他なりません。
高配当が続いていれば、奪われる既得権も大きいです。
アットホーム事件判例では、上記の解釈について正面からは触れてはいません。
しかし、上記の解釈を意識し、これを主張されても結論が崩れないように、事実認定を行っているように感じられます。
すなわち、持株会会員総数136名中125名が解散への同意書を提出し、同意書を提出しなかった10名も精算金の振込依頼書を提出したことにより最終的には解散決議を受け入れたと認定しています。
原告1名を除き、既得権を奪われる組合員の全員が同意したというわけです。
加えて、会員が1,500円から2,000円で取得した株式を3,000円で精算しての解散だから、原告に対しても理不尽な解散ではないだろう、という論法です。
それでは、同意をしない会員が20人、30人といたらどうなったでしょうか?
また、その全員が原告となっていたらどうなったでしょうか?
それでも、「本件規約上、規約の変更には少なくとも三分の二の賛成(三分の一以上の異議がないこと)が必要であることからすれば、本件解散決議にあっても三分の二の賛成の賛成をもって可決とするのが相当」という判決が出るでしょうか?
この点については、私はかなり懐疑的です。
裁判所としては、多数決があれば少数者の既得権をどれだけ奪っても良い、とは言いにくいと思います。
そして、多数決による解散を認める条件として、組合員全員にとっての解散の正当性を強く求めてくるように思います。
既得権益は奪われたが、しかし、解散はやむにやまれぬものだったとして、解散を認める方向に持っていきたいわけです。
さて、そこで、実務上、持株会を解散したい場合にはどうするか、ですが、これは全会員の同意を得るために根回しが不可避です。
そして、同意を得るために、株式の精算(買取)価格を相応の値段にすることが必要です。
その上で、同意をしない会員が一定数以上残ってしまったら、リスクを取って解散を進めるかどうか、そして、解散に正当性があるのか、再考が必要と思います。
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