非上場会社の従業員持株会 ― 解散の原因と必要な手続
非上場会社の従業員持株会は、さまざまな理由から解散に至ることがあります。
今回は、代表的な解散の理由と、その手続について整理します。
まず、解散の理由には、以下のようなものがあります。
会員の拠出額が少なく、新入会員もいない。
退会者の株式を買い取る資金がなく、持株会を継続できないケース。
IPOによるキャピタルゲインを従業員に得させるべくして持株会を作った。
しかし、IPO自体が中止になったケース。
自社が買収される際に、買手の意向により解散を求められたケース。
自社が株式移転で100%子会社化されたケース。
(ホールディングカンパニーには持株会を設けない方針)
得意先の大企業に自社株の数割を持ってもらった。
何年かしたら、その大企業が高配当を要求してきた。
これに応じると、配当利回りが異常に良い持株会となってしまうため、解散を選ぶケース。
さて、多くの非上場企業の持株会は、民法上の組合です。
よって、解散をするには、以下の民法の規定に従うことになります。
(組合の解散事由)
第六百八十二条 組合は、次に掲げる事由によって解散する。
一 組合の目的である事業の成功又はその成功の不能
二 組合契約で定めた存続期間の満了
三 組合契約で定めた解散の事由の発生
四 総組合員の同意
そして、全員の同意があれば、上記の四号により、解散できます。
ただ、全員の同意が得られるとは限りません。
そこで、上記の「三 組合契約で定めた解散の事由の発生」に拠ることになります。
そして、持株会規約に解散の事由は定められていないのが一般的です。
よって、持株会規約を変更し、以下のような解散の規定を加えます。
「理事会が解散案を会員に通知し、2週間以内に3分の1以上の異議がなければ解散とする」
規約変更の手続が完了した後、この解散の規定に従って持株会を解散します。
次いで、解散が成立したら、次は清算に入ります。
まず、持株会が解散した旨を、会員に通知します。
また、以下の民法の規定に従い、清算人を選任します。
(組合の清算及び清算人の選任)
第六百八十五条 組合が解散したときは、清算は、総組合員が共同して、又はその選任した清算人がこれをする。
清算人は、以下の民法の規定に従い、業務を進めます。
(株式会社のような官報公告や債権者への催告は不要です。)
(清算人の職務及び権限並びに残余財産の分割方法)
第六百八十八条 清算人の職務は、次のとおりとする。
一 現務の結了
二 債権の取立て及び債務の弁済
三 残余財産の引渡し
2 清算人は、前項各号に掲げる職務を行うために必要な一切の行為をすることができる。
3 残余財産は、各組合員の出資の価額に応じて分割する。
具体的には、持株会が保有する株式を売却し、株主名簿の名義変更を行います。
そして、売却代金や拠出金を各会員の口座に振り込み、精算書を交付します。
持株会名義の預金口座を解約します。
そして、理事会に清算報告を行い、持株会は解散となります。
また、上記の法律上の手続とは別に、従業員に持株会解散を納得してもらうための事前の説明が重要となります。
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